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001 ベテラン騎士バルト

 騎士の鎧に身を包んだ大柄な男が見慣れぬ町に辿り着いた。


 男はバルトという五十路の冒険者だ。シルバーの髪を靡かせ、岩のような顔つきに鼻から下は白い髭で覆われている。


 背中には大きな盾、左の腰には斧がある。


 一目でバルトがベテランだと分かる風貌であった。


 実際に数々の冒険をこなしてきたバルトだが、秘かに引退を考えていた。


 若い頃と違い、体力や技の衰えを感じてきたのだ。


 それでも、大抵の冒険者に負けるつもりはない。


 金もある。


 だが、思いとは反比例するように老いが力を奪っていくのはどうすることも出来なかった。


 バルトは初めて訪れた町の門兵に通行料を払い、町の名がゼクシオだと知る。


 バルトは酒場に入る。


 知り合いもいないバルトはカウンターの端に腰掛けた。


 店のマスターは無愛想にビールをバルトに渡す。


 無愛想なのはマスターだけではない。商人風の男も兵士の男も会話がはずんでいない。


 バルトがマスターに店の雰囲気についてそれとなく尋ねると、ぼそぼそと話してくれた。


 「ああ、景気が悪いからだ。それと、人生に疲れたり挫折した奴らがここにくるみたいでな。あんたもそうなのかい」


 「似たようなものだな」


 バルトがそう答えると、店はまた会話の弾まない空気に包まれた。


 この町ではダメだな‥‥


 引退をして違う生活を始めるにしても覇気がなさすぎる‥‥


 そのうち鬱になりそうだ‥‥


 バルトが望むのはそういう余生ではない。


 思えば、独りの冒険者として頑張りすぎた。


 若い頃は一夜限りの恋などもしてきたが、やはり求めたいのは家族のような温かさだ。


 そして、そんな家族をも包んでくれるような町の温かさが欲しい。


 「なあマスター。この先に賑やかな町はあるだろうか」


 マスターはタバコを吸いながら言った。

 「サイハテブルグだな。南の山を超えた町がそうだが‥‥」

 「が?」

 「いや、あんたなら問題ないだろ」

 「どういう事だ」

 「魔物と遭遇しやすい土地ってだけさ。あんた、ベテランの冒険者だろ。町の冒険者も力試しで訪れる奴が多いんだよ」


 バルトはビール代を払うと宿屋で夜を過ごし、翌朝サイハテブルグに向かうことにした。


 南の山に入っていく。


 既に色んな旅人が通っているのか、道がある。


 程なく歩くうちに周りは木々に覆われていく。


 進むうちに冒険者の勘が、この先の危険を予感させる。


 用心に進みながら背中の盾を左腕に装着する。


 やはり何かいる。


 


 草木がガサッと動く!


 俊敏に飛びかかってくるものがいた!


 バルトは予想通りと落ち着いてそれを盾で捌く!


 捌かれたのは魔物のレッドウルフだった!


 通常の狼より一回り大きく、牙も大きい!


 レッドウルフが持ち前の俊敏な攻撃で襲い掛かる!


 バルトは盾を横にしてレッドウルフの開いた口にぶつける!


 ガキンという激しい音ともに、レッドウルフの牙が折れてしまった!


 苦悶に喘ぐレッドウルフを空中にいるうちにハンマーのように右拳を叩きつけた!



 レッドウルフはピクピクと舌を出しながら伸びてしまった。


 


 バルトはさらに奥へ進む。


 日も暮れてきたので枝を集めて魔法で燃やして焚き火をする。


 アイテムボックスからさらにフライパンを取り出し、さらに先ほど捌いておいたレッドウルフの肉を焼き始める。


 辺りにいい匂いが立ち込める。



 ふと横を見ると子供がいる!


 バルトはちょっと困惑する。


 何故こんな山の中で‥‥


 女の子か‥‥


 魔物に襲われずに生きていたというのか‥‥


 


 物欲しそうな様子の少女にバルトは優しく手招きする。


 「お腹、空いてるのか」


 少女はコクコク頷く。


 バルトは皿を取り出し、食べやすいサイズに肉を切って少女に分けた。


 少女は肉とフォークを受け取ると、一口に食べる。


 最初は少し熱かったようだが、モグモグするうちに美味しさが口に広がっていき、幸せそうな顔になる。


 バルトもそれを見て慌てたり、ハラハラしながら見ていたが、少女の幸せな顔を見て天使だと思った。


 「何故、こんな山の中に一人でいたのだ」

 

 少女は食べながら話そうとしたので、慌てて食べた後で話すように言った。


 「パパとママと旅をしてたの。でもママは元気じゃなくなって死んじゃった」

 

 「ふむ‥‥」


 「パパはたくさんの魔物と戦って魔物は倒したけど、パパも血がいっぱい出てて死んじゃった」


 「そうか‥‥」


 この家族が何故旅に出ることになったのかは分からない‥‥


 母は慣れない旅に体調を壊してそのまま‥‥


 父は冒険者だったのだろうが、娘を守りながらの戦いとなり、苦戦してしまったのだな‥‥


 バルトは肉を頬張る少女の頭を優しく撫でた。


 「よく‥‥生きていた‥‥」


 すると、少女はバルトに飛びつき泣き始めた。


 バルトはその大きな身体で小さな少女の身体を優しく抱きしめた。


 「怖かっただろう‥‥でも、よく生きていた。安心するのだ。これからは私が命をかけてそなたを守ると誓う」


 



 それから、何日か後に山を抜けてサイハテブルグにたどり着くことになるのだが、色々分かったことがあった。


 少女の名前はハナという。四才。人間だが、魔物が近くにいると分かるらしい。


 さらに気配を消す能力も持っているようで、何とか生きてこれたらしい。


 


 サイハテブルグの門兵に通行料を払い町に入る。


 マスターが言っていたように賑やかな町のようだ。


 人間が多いが、エルフもドワーフもいる。


 バルトはハナを抱いたまま冒険者ギルドを探した。


 ギルドに入ると、色んな冒険者がバルトの姿に珍しげな目線を向ける。


 五十路の大柄な騎士が小さな少女を抱きながら入ってきたからだ。


 バルトは受付に冒険者登録をする旨を話す。


 そこで、あっ、とバルトは思う。


 引退をしようとしていたのに登録してどうするのか‥‥


 だが、もう持っていた冒険者証を受付に渡した後であった。


 今までの町の登録に加え、サイハテブルグでの登録を上書きするだけなのだが、これを見せれば通行料は払わなくて済むようにはなる。


 まあ、ハナがいる状況だ。


 冒険などしている場合ではないだろう。


 ハナは冒険者たちの癖のある空気にバルトにヒシと抱きついている。


 恐がっているのだろう。無理もない。ただでさえ見知らぬ土地なのだ。慣れるまで少しかかるだろう。


 

 この土地はこれまでの町よりも数段強い魔物が住む地域が色々あり、あるパーティは奥の山へ、またある者はダンジョンに、と力試しに訪れている。


 バルトとハナは、まずは住む所を探しに宿屋に向かうことにした。


 しかし、冒険者が最近増えてきたらしく、どこも一杯らしい。


 そんな二人を呼び止める者がいた。


 二十歳くらいだろうか、冒険者ではないようだが、町の住民であろう女性がいた。


 「何かようだろうか」


 バルトがそう言うと、女性は食べ物が欲しいと言ってきた。


 ハナといい、この女性といい、最近お腹を空かせた者と縁があるなと思い、

 「ならば酒場でも行こう」


 と、バルトは促した。


 





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