インパクトのあるタイトルってなんだと思う? 〜なろうに投稿するタイトルに悩む若人に──冷酷で残酷な正解を与えてみた。〜
──とある学校の昼休み。
隣の席の友人が突然話しかけてきた。
「なあ、小説のタイトルって難しくないか?」
「急にどうしたのさ? 僕にそんなこと言われても」
「ネット小説を書いているんだが、いいタイトルが思いつかなくてな」
「聞く相手が間違ってるよ。僕は小説とかは全く読んだことないからね」
「じゃあ……」
友人がノートの端に何かを書いている。
「これは?」
と、差し出したノートの隅には
吾輩は( )である
「これに入る言葉は何か分かるか?」
「猫、でしょ? バカにしないでほしいよ。いくら小説を読まないからって教科書レベルのものは分かるよ。インパクトがあるからね」
「それなんだよ。俺が求めているのは頭に残る印象的なタイトルなんだ。でもこれがなかなか難しくてな」
「なるほど。それならいい考えがあるよ。既存の作品を参考にすればいいんだよ」
「ほう?」
「古今東西、基本的に全く新しいものというものは存在しないからね。どんな名作と呼び声高いものも、結局は作者のそれまで得た知見の範疇を出ない。過去から学ぶというものはある意味で必然なことなのさ」
「過去から学ぶ……か。確かに一理あるが、さすがに夏目漱石を参考にするのは無理があるな。さすがに今の時代に合っていない気がする」
「じゃあ、君が好きな漫画とかアニメとかを参考にすればいいんじゃない? 僕は漫画もアニメもほとんど見たことないから力にはなれないけど」
「ならばお前の純粋な視点からの意見を参考にさせてくれ。インパクトのあるタイトルづくりに力を貸してほしい」
と、また何か書いてノートを差し出してくる。
鬼滅の( )
「ここに何が入れば、インパクトがある?」
「きめつ、って読むのであってるのかな? 初めて聞く破壊力のある修飾語だね」
「それだけに、その修飾語を受けるこの単語が大事になるのかもしれんな」
「……鬼滅、つまり鬼を滅ぼす作品ってことだよね? ということは、こうじゃないかな」
鬼滅の(桃太郎)
「これならインパクトがあるんじゃないかな」
「ここまで修飾語が情報量を失うことってあるんだな。あってもなくても読者の作品イメージが変わらないぞ」
進撃の( )
「じゃあこれは何が入ればインパクトがあると思う?」
「進撃……つまり、ものすごい勢いて迫りくる何かってことだよね?」
「そうだな。ある日、人類は思い出したんだ。壁の向こうに奴らがいることを──」
進撃の(元カノ)
「主人公は節操のない男だったんだね。きっとこれはストーカーという根深い問題を扱う社会派作品に違いない」
「進撃、という言葉が恐怖心をあおるのにぴったりなのがシャクだが」
「ちなみにオリジナルのタイトルを教えてくれないかな?」
「オリジナルは、”進撃の巨人”だな」
「へー。たしかに強かった時代もあると聞くしね。最近は微妙だけど」
「……何を言っている?」
「え、だから”進撃の巨人、撤退の阪神”のことでしょ?」
「なんでや! 阪神関係ないやろ! ……これはどうだ?」
( )に出会いを求めるのは間違っているだろうか?
「最近は疑問形のタイトルもあるんだね。この作品はどんなジャンルなの?」
「冒険ファンタジーで、ハーレム要素があるな」
「なるほど、ハーレム要素だね……」
(結婚式)で出会いを求めるのは間違っているだろうか?
「いや確かに、未婚の新郎新婦の友人にとってはそういう場の一つだから、別に間違いではないと思うが」
「新郎が出会いを求めてるんだよ」
「それは間違いなく間違ってる。ハーレム要素の加減が間違ってる」
「次々と即座に女を落とすあまりの所業についた二つ名は、絶倫の象徴である兎をかけて世界最速兎といったところか」
「奇跡的に一致したな……じゃあこれは?」
盾の勇者の( )
「最近のラノベに代表される一大ジャンルが入るぞ。最近はタイトルで内容が分かるものが好まれる傾向にあるんだ」
「なるほど、分かりやすい直球のタイトルということだね……」
盾の勇者の(護身術)
「これなら内容はバッチリだね」
「逆に盾を使わなかったら驚きだな……というか待て。いつの間にか趣旨がずれている気がする」
「今さら気付いたのかい?」
「まあいい。これからが本番だ」
「本番?」
「今までのお前の意見を参考にしつつ、既存の作品をなろうの特色を加味したタイトルに改題してみようと思う」
「えーとごめん。なろうってなに?」
「ふむ……まあ端的に説明すると、日本で一番大きいネット小説のコミュニティみたいなものだ。俺のネット小説もそこに投稿する予定なんだ」
「へえ」
「まずはこの作品で考えてみよう」
走れメロス
「うーん、この作品はこのままでいいと思うけど。端的だしインパクトもあると思うし、何より作品の核心部分だしね」
「いや、このままではなろうでは受け入れられない。もっとこの作品の読者層にアピールできるタイトルじゃないとだめなんだ!」
「なるほどね……作品にあったタイトルを考えるだけでなく、少し視座を上げて市場の消費者層の趣味嗜好に確実かつ的確にリーチしていく、いわゆるターゲティング広告のような手法を取り入れていこうというわけだね」
「なにを言っているか分からないが」
「気にしないで」
「いや気にするんだが……とりあえず走れメロスは、なろうに合わせて改題するなら……こうなる」
走れメロス
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羊飼いパーティーを追い出された。でも無能と言われたユニークスキル、”沈みゆく太陽の 10 倍の速度で走る”【逃走】で世界最速に!〜妹の結婚式に帰ってきてほしいなんて言われてももう遅い。邪智暴虐の王を倒しに行くので〜
「なにを言っているかわからないよ」
「気にするな」
「いや気にするんだけど……まずタイトルが長すぎるよ」
「それは違う。ネット小説は紙の小説と違って作品数の桁が違うからな。埋もれないようにタイトルで差別化する必要がある」
「そうなんだ」
「例えば本屋で本を選ぶときは、本のタイトルだけでなく、表紙の絵、装飾、それに帯という作品をアピールできるポイントがたくさんある」
「言われてみればそうだね」
「でも、ネット小説はタイトルしか読者にアピールすることはできないんだ」
「なるほどね。だからタイトルに色々と詰め込もうというわけなんだね。理解したよ」
「じゃあ最後にこの作品を考えてみよう」
NALUTO
「僕でもこの作品は雰囲気だけ知ってるよ。忍者の話だよね?」
「そのとおりだ。シンプルに主人公の名前をタイトルにした作品だが、意外にこんなド直球タイトルはかなり希少かもしれないな」
「作中での命名エピソードもかなり印象的で読者の記憶に残るものだと聞いているね」
「なんで分かるんだよ」
「雰囲気だね。わかるでしょ?」
「わかってたまるか……とりあえずこの作品をなろうに合わせて改題するなら──」
「待って。さすがの僕もこの作品タイトルを丸々変えてしまうのは心苦しいよ」
「……何故だ?」
「……雰囲気的に」
「その雰囲気は俺も分かる。たしかに”それやっちゃっていいの”的な雰囲気が方々から蔓延した気もするが、LとRということで左右の耳をふさがせてもらおう」
「あまり変えすぎないようにね」
「とりあえず作品への最大限のリスペクトとして、サブタイトルだけつけることにしよう」
「だとすると、さっきの走れメロスの方は作者に角が立つけどね」
「奴は借金の身代わりに友人押し付けて逃げた挙げ句戻らないという、逆メロスだから問題ない」
「間違いないね」
「じゃあ……こんな感じだな」
NALUTO〜落ちこぼれだと思ってたけど実は仙人の生まれ変わりだった俺、もふもふを従えて無双します。〜
「うん、やっぱりなんかひどいね。しかもさらっと終盤の重大な事実がネタバレしているよ」
「なろう系にはよくあることだ。読者が期待する展開を先に予告しておくことで、より多くの人が読んでくれるからな」
「そうなると、似たりよったりのタイトルになってしまう未来が目に見えるね」
「たしかにそれは否定できない。しかしよりキャッチーなタイトルの作品は次々と出てくる。読者も新しい作品を求めていく」
「なるほど。読者を最初に掴むことができても、それを継続できるかは別問題というわけだね」
「だがそんな無数の作品が生まれ出るなろうの中でも、継続して読者を集めている作品もある」
「つまり、なろうにはなろうなりの苦楽があるというわけだね。よく知らない僕みたいな外野からとやかく言うのは違うみたいだ」
「そうかもしれないな」
「じゃあ最後に今までの議論を踏まえて、なろうに投稿する小説のタイトルに関するアドバイスを君に送るよ……」
「ああ、聞かせてくれ……!」
「小説のタイトルをあれこれ考える前に、中身考えたほうが良いね」
「……」
「あれこれ考えるよりも、1文字でも書いたほうが建設的じゃないか」
「……ぐうの音も出ない正論を聞くと、人は何も言えなくなるんだな」
「ところで、君の小説のタイトルは決まったかい?」
「そうだな。今はちょっと趣向を変えたもの書きたい気分だ。こういうタイトルの作品はどうだろうか?」
「うん。いいんじゃないかな」
インパクトのあるタイトルってなんだと思う? 〜なろうに投稿するタイトルに悩む若人に──冷酷で残酷な正解を与えてみた。〜