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第九十話 突入



「マズいぞアラン! 騎士がこっちに向かってきてる!」

「マジかよ……。陛下と旦那様の方で何とかしてもらえるもんだと思っていたのに」

「騎士団も一枚岩ではないからね。全ての動きを止めきれるわけではないよ」



 夜間を通して作業を行った結果、朝日が昇る頃には九階層目まで到達していた。

 しかし後少しで最下層に着くというところで急報だ。騎士の一隊が、俺を逮捕しに来たという報告が入った。


 全国指名手配にしてくれと頼んだ手前偉そうなことは言えないのだが。

 あと二、三日。せめてダンジョンから帰ってくる時間くらいは稼いでもらえるものだと思っていたのに。



「どうする? 九階層から入るか?」



 ラルフが言う通り、九階層から入ってダンジョンの攻略を始めた方が成算はある。

 ダンジョンの中に入ってしまえば、騎士を撒くのも容易だろう。 


 対外的にはサージェスを連れ戻すためにここへ来たことになっているのだから、少し遠回りになったとしても、途中の階層から捜索を始めるのが自然でもある。



「あと少しなんだ。何とか足止めして、直接十階層に行きたい」



 だが、俺としてはメリルとサージェスに先回りして動きたいのだ。

 彼らの目論見。何らかの企みを潰したいというのが俺にとっての本筋なのだから、この提案には少し悩んだ。



「足止めと言ってもどうするつもりだ?」

「そうだな……俺らが降りた後、縄梯子を切っちまうとかはどうだ?」

「アラン。彼らも魔法は使えるのだから、風魔法で飛んで来られたら意味がないよ」



 騎士団員ともなれば最低限の魔法は使えるか。

 それなら俺たちが通った後に土魔法で壁を作れば――と、考えた矢先に予想外の事態が起きた。



「私たちの出番のようね!」

「足止めは我らにお任せを」



 リーゼロッテとエミリーが、完全武装(・・・・)で現れたのだ。

 二人とも、ダンジョンに潜る時の恰好だ。


 リーゼロッテは動きやすさ重視の軽装に、容姿と似合わないゴツめのガントレットを装備している。

 エミリーは宝石が散りばめられた杖を手に持っているが。あれはクリス謹製の装備であり、ラストダンジョンも攻略できる最強装備だ。


 血の気が多いリーゼロッテはともかくとして、エミリーまで騎士団に喧嘩を売る気なのだろうか。

 と、呆然とする俺の背後に回り、リーゼロッテは背中を押す。



「悩んでいる時間は無いわよ! ほら、行った行った」

「大丈夫ですよ。アラン様の部下も大勢いらっしゃいますし」



 戦闘能力の問題ではなく、騎士団に手向かいしたらその後が怖いという点を気にしているのだが。

 俺が口を挟む隙すら与えず、リーゼロッテは俺をぐいぐいと穴の方に押し込んできた。



「私もね、頭を使うことにしたの」

「……熱でもあるのか?」

「失礼な執事ね! これでも英才教育を受けているんだから!」



 学力だけで見ればそうなのだが、普段の猪武者ぶりを見ているとどうもピンと来ない部分がある。

 今の姿を見ても喧嘩を売る気満々にしか見えないのだし、大いに不安は残るところだ。


 しかし、ここまで自信満々なのだ。何かしらの勝算はあるのだろう。

 そう考えた俺は後を二人に託して、攻略対象の面々と共に地下へ向かうことにした。



「クリスはまだフラついているだろ、ここに残るか?」

「いえ、これしきのことで……。地下には魔物もいるはずです、固定砲台としてお使いください」



 一晩眠って正気を取り戻したクリスではあるが、足は生まれたての小鹿のように震えており、まともに戦えるコンディションではない。

 しかし本人はやる気満々だ。

 風魔法を使い宙に浮いたので、彼の意思を尊重して連れて行くことにする。



「皆。行く前に一つお願いだ。アイツらと遭遇した時は、まず俺一人で話をさせてくれ」

「僕は構わないけど、何を話すつもりだい?」

「色々だな。まぁ、悪いようにはしない」

「アランがそう言うなら任せよう。異論がある者はいるかな?」



 特に反対意見も出なかったので、俺は装備品を身に着けて戦闘準備を完了させた。

 後は穴に飛び込むだけ――なのだが、リーゼロッテの言う頭を使う(・・・・)という言葉がどうしても気になる。



「……まさか頭突きする気じゃないだろうな」



 そう思い物陰から振り返れば。

 そこにはふんぞり返って高笑いをしているご令嬢の姿があった。



「おーっほっほっほっほ! まさか公爵家の一人娘であるこの私に、手を出すつもりなのかしらぁ?」

「お退き下さい! その先に脱獄犯が居ることは分かっているのです!」



 騎士団員は大抵がいいところの生まれだが、流石に公爵家へ刃向えるほどの人材はいないだろう。

 リーゼロッテが立ち塞がり、身分を盾に威圧している横で。エミリーも並び立って宣言をした。



「では、不敬罪に問われる覚悟がある方のみ、前へお進みください。……そうそう、申し遅れましたが。私、エミリー・フォン・ワイズマンと申します」

「ワ、ワイズマン伯爵家の……!?」



 手を出したらマズいぞ。などという騒めきが聞こえてきたが。

 まあ、流石は悪役令嬢と言ったところだろうか? こんなこすっからい手で足止めを試みるとは。

 エミリーも父親の威圧感を存分に利用しており、騎士たちは及び腰になっている。



「十分くらい稼いでもらえれば十分だ! 行くぞ野郎ども!」



 先陣を切った俺を先頭に、ハル、ラルフ、クリス、パトリックの順にダンジョンへ飛び込んでいく。


 縄梯子や機材が奥へ続いているので、行き先は非常に分かりやすい。

 作業用の灯りを設置していることもあり、俺たちはすぐに九階層へ辿り着いたのだが。


 しかし到着してみれば、発破工事は中断されていた。

 今は大工の親方も含めた全員が、各々の獲物で魔物と切り結んでいる状態だ。



「アラン様! 何だって下に!?」

「緊急事態だ。作業を急がせてくれ」

「合点でさぁ! ですが、この有様じゃあ……」



 ゲームではエンカウント率の調整をしてくれるが、現実はそんなに優しくない。

 魔力溜まりからは魔物が自然発生するので、数十年か、下手をすれば数百年単位で魔物狩りをしていなかった地下ダンジョンには、無数の敵が(うごめ)いていた。


 そこまで危険な魔物はいないようだが、中級者向けダンジョンでも上位に入りそうな難易度だ。

 厄介なことになったと思う反面、これだけの数がいればメリルとサージェスへの足止めもできているだろうと、俺は胸を撫で下ろす。



「敵は俺たちが引き受ける! 俺とクリス、それからパトリックは後方から、魔法で援護だ。ラルフは壁になってくれ!」

「え? 前衛は俺一人かよ!」

「周りにも護衛がいるんだから、協力して叩け! ハルはラルフのバックアップだ。行くぞ!」



 しかし安心してばかりもいられない。

 親方たちを作業に戻し、敵を俺たちが引きつけねばならないのだ。


 パトリックは初めての実戦だし、クリスも戦闘経験が浅い上に体調は絶不調。

 連携の取れるラルフとハルが上手いこと盾になってくれているので、クリスの射線上に入らないように、俺の方で位置取りを調整して飛び回ることになった。



 そんなこんなで、苦戦すること十数分。

 何とか戦線を維持して粘っていれば、背後から轟音が響いてきた。

 振り返れば瓦礫が音を立てながら下層に落ちていく姿が見える――どうやら十階層に到達したようだ。



「この五人で突入する! 親方たちは、持ち場を死守してくれ!」

「アラン様ァ! ここいらにバリケードを作りたいんですが、通路は塞いでもよろしいので!?」

「好きにしろ! ついでに落盤事故でも起こして、魔物を生き埋めにしてしまえ!」

「ああ、そうかその手があったか……野郎ども! 九階層が崩落しない程度に、天井をぶち壊せ!」



 「原作」でも洞窟内では土魔法の威力が上昇したり、特定の魔法やアイテムを使うとステージギミックが発動して即死級の大ダメージを与えたりすることがあった。


 ギミック扱いになるかは分からないが、八階層の天井を落とせば目の前の魔物たちを物理的に倒せるだろうし。ついでに八階層にいる魔物も始末できるだろう。

 十階層まで潰されては俺たちの命が危ないが、そこは熟練大工の腕を信じることにした。



 さて、俺たちは風魔法を利用して、瓦礫と共に階下へ雪崩れ込んだ――のだが。

 視界を遮る砂ぼこりを薙ぎ払えば、そこには早速目当ての二人が居た。


 天井をぶち抜いて登場した俺たちを見て、メリルたちは驚いたようだし。

 探し人が急に目の前へ現れて、俺たちも驚いた。


 お互いに、予想外の遭遇に驚いているという構図になるか。



「ア、アラン!? エールハルト……殿下と、ラルフにクリスとパトリックまで!」

「ほう。追いついて来るとは……流石だな」



 余裕たっぷりに言うサージェスだが、マントは裂けているし、あちこち傷だらけである。

 メリルの方は装備品の耐久力が最高レベルなので見た目は無事に見えるが。


 気にするべきは、そんなところではない。


 祭壇の上に立った二人の様子を見れば、メリルの手には青白く輝く(さかずき)が握られている。


 どうやらアレを手に入れるためにここへ来たようだが、俺たちはギリギリで間に合わなかったようだ。

 焦った様子を見せていたメリルだが――俺の視線の先を追ってから――勝ち誇ったように笑って見せた。



 その笑みで、俺は直感する。

 いかん。アレは絶対ロクなもんじゃない。と。



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