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国王陛下大勝利! 希望の未来へレディー・ゴー!!



「飛び、前蹴りぃぃいいい!!」


 一点をひたすらに狙い続け。

 サージェスが斬り込んだ場所へ、リーゼロッテが連撃を叩きこんだ瞬間。


『ゴアァアァアアアアァアアッッ!!』


 苦悶の表情を見せて、魔王の巨体が揺れた。

 体中がひび割れ、鎧のような皮膚が剥がれ落ちていく。


「や、やったか!?」

「フラグでしかねぇ! まだ最終形態が残ってんだよ!」


 ラルフはようやく感じた手ごたえに喜んでいるが。

 ここから更に、敵の攻撃性能は上がるらしい。


 しかし俺たちはと言えば、もう魔力は空に近いし、前衛組は手傷も負っている。

 兵を率いて左右を抑えにいった部隊も押され気味であり。

 満身創痍な上に孤立無援だ。


『オロカナル、ニンゲンドモ……ホロビヨ!』


 片言を喋るようになった魔王の背後に、曼荼羅(まんだら)のようなものが出現し。

 紫電を纏い、顔に現れた八つの目玉がぎょろりと――俺の方を向いた。


 指揮官のポジションにいる俺から殺すつもりなのだろう。

 銃口のように構えられた触手が、一斉射撃の態勢に入ろうとしていた。


「これは……ヤバいか」


 完全に詰んだと思った次の瞬間――味方の本陣から、光が迸る。


「あ、あれは!」

「父上!」

「……はぁ。ようやく、か」


 魔王も含めた全員が動きを止め、少し高い位置に築かれた本陣へ注目した。


 天まで登る金色の光を携えて、重装騎兵化した馬の上で、槍を掲げる男が一人。

 彼は頭上で得物を旋回させると、単騎で敵の海に飛び込んだ。


 立ち塞がる敵は大小を問わず、一瞬で、一撃で粉砕し。

 無人の野を行くが如く、こちらへ進撃してくる。


 オーガやサイクロプスのような大型も、構わず空中へ打ち上げられていた。


「すげぇ」

「流石、公式チートキャラね」


 味方が数千人がかりで何とか押し上げた戦線を、たった一人で切り裂いていく男。

 彼こそは国王陛下。

 他の地域の制圧を終え、満を持して出陣したらしい。


 恐らく作中で勝てる者はおらず、魔王ですら一撃で葬る可能性がある男だ。


 しかし敵の物理的圧力の前に、進軍速度は徐々に落ちていた。

 このままでは彼が辿り着くよりも早く、魔王が攻撃を始めるだろう。


「よ、よし、こうなったら撤退だ! 敵を蹴散らしながら帰るぞ!」

「ちょっとアラン! 折角いいところなのに――」

「うるせぇ! 逃げるんだよ!!」


 ハイになっているリーゼロッテは継戦を求めているようだが。

 冗談ではない。


 もう俺たちは体力も魔力も使い果たしているのだから、ここは最速で安全圏まで撤退するのが正解だ。


「う、うわぁ!? ちょ、ちょっとアラン!」

「てめぇら! ずらかるぞ!」


 徹底抗戦しようとするリーゼロッテを担ぎ上げ、残っていた魔力を全放出する勢いで後方へ駆ける。


 全員がそれに続き、魔王の攻撃範囲から逃れた辺りで。

 俺たちが切り開いた道へ乗り出し、一騎駆けをする男と目が合った。


 今までのどんな瞬間よりも楽しそうな顔をした陛下は、そのまま魔王の眼前に駆け寄り――最後の一騎打ちが始まった。


 初手。

 陛下は馬の勢いもそのままに、手にしたゴツイ槍でランスチャージを仕掛けた。

 魔王はバリアのような物理障壁を張って、それを押し留める。


 二手目。

 馬から飛び降りた陛下は。どういう理屈なのか、バリアを垂直に駆け上がり。

 魔王の顔の高さまで駆け上がった瞬間――


 手にした槍を、思いっきりぶん投げた。


「ウォオオラァァアアアアアッッッ!!」

『バ、バカナッ! ナンダ、キサマハ!?』


 そう言えば第三段階の魔王って喋るんだよな。

 セリフを碌に聞いてないけどどうしよう。


 という思考が頭を掠める中での三手目。


 高速回転して、ドリルのように飛来する槍をバリアで押し留め。

 魔王が反撃するかと思った瞬間。


 陛下は風魔法でブーストをかけたらしく、空中で急激に前進した。


 障壁に押し留められた槍に、ゴツいブーツで後ろ回し蹴りを叩き込み。

 槍を釘に、足をハンマーに。そう見えるような構図で、追撃を叩き込む。


 追加の衝撃が加わった結果として、魔王の身を守るバリアは、徐々にひび割れていった。


「これで――終いだッ!!」


 前進を始めた槍は、そのまま魔王の眉間をぶち抜いていく。


 魔王の身体を突き抜けた槍は、一筋の閃光を描きながら、勢いのままに空の彼方まで飛んでいった。


『ウゴォァアアアア!?』


 致命の一撃を受けた魔王は断末魔の声を上げている。

 本当に一撃で、体力を削り切ったらしい。


『コノ、ワレ……ガ!! オノ、レ……!』


 最後に、その大樹のような腕で陛下を掴もうとしたようだが、それすらもできず。

 崩壊していく身体と共に、仰向けに倒れていった。


 戦場が揺れるような、軽い地震を起こした数秒後。


 誰もが声を発さず、しんと静まり返る中で。

 空を覆っていた紫色の雲が晴れていき、雲の切れ間から光が差し込んできた。


「もう少し、楽しめると思ったが」


 特に感慨も無く、陛下がそう言い。

 予備の武器である腰の剣を抜き放つと、全軍に届くほどの大声で叫ぶ。


「敵総大将、討ち取ったり! 勝鬨(かちどき)を上げよ!!」


 その声を聞いた人類軍が、勝利の雄叫びを上げ。

 それと同時にアンデッド系の敵は消えていった。


 戦場の敵が一気に半分近くなったので、あとは掃討戦だ。


「つっても、俺たちはこれ以上戦えねぇな」

「はは、そうだね……。さ、リーゼ。大人しく帰ろう」

「むぅ、仕方ないわね。今日はこれくらいにしておいてあげるわ!」


 最後に申し訳程度の悪役令嬢セリフを吐き捨て、どうにか無事に本陣まで帰ると出迎えがあった。


「王太子殿下、遅参をお詫び致します」

「いいよ、父上に付き合わされていたのだろうし」


 そこには別動隊を連れて、陛下と共に行動をしていた旦那様。

 クライン公爵家当主の、アルバート・フォン・ジオバンニ・クライン様がいた。


「では……。早速ですが、アランをお借りしてもよろしいですか?」

「え?」


 最前線中の最前線でこき使われた俺は、本当にボロボロだ。


 今から追撃部隊に混ざれと言われても足手まといにしかならない。

 ハルもそう思ったのだろうが。


「少しお話があります」

「そういうことなら、まあ」

「アランったら、何をやらかしたのかしら」


 やれやれといった顔をしているリーゼロッテの前で、アルバート様が言うには。


「アラン。何故、リーゼが前線にいたのかな」

「……はい?」

「えっ?」

「私はてっきり、リーゼが大人になり。今回の戦いでは王都で大人しくしてくれていると思っていたのだけれど……。王妃としての公務はどうなっているのかな、と」


 王が戦争に出かけたら、王妃が国を守る。

 それが普通の形だ。

 王太子妃となったリーゼロッテが、内政を切り盛りするのは当然の話なのだが。


 今回は最初から、魔王と戦う時の頭数に入れていた。

 最初から。

 誰もが。


 このお嬢様が最前線で戦うのは当然という認識だったのだ。


 しかし考えてみれば色々とおかしい。

 次期王妃様が戦場のど真ん中へ特攻するなど、確かに狂気の沙汰だ。


「その辺りは、じっくりとお話をしないといけないようだね」

「え、あの、うそぉ……」

「わ、わたしはハルと、お仕事があるから。そ、そっちは任せたわね、アラン!」


 そう言うなり、リーゼロッテはハルの腕を掴んで本陣に駆け込んだ。


 つまりこれからアルバート様のお説教が始まるようなのだが、今回ばかりは何も言い訳が思いつかない。

 企画の段階から、俺も当然の如く参戦を認めていたからだ。


「さ、私たちも行こうか。本陣で話そう」

「は、はは……」


 先に歩いていく旦那様を見送りつつ。

 俺は、一人思う。


 今回は恐らく本気の説教が待っている。

 場合によっては制裁もあり得るだろう。


 今さら斬首も無いとは思うが、何とかして無事に済む道を探さなければ。


「そうだ。エミリーとは結婚したばかりだし、マリアンネとはまだ式も挙げてないんだからな。ここじゃ死ねねぇ」


 戦場にいる時は何も思わなかったのに、今さら生きて帰りたいと思うようになった。


 しかしそんな及び腰では、どんな罰を受けるかも分からない。

 普通に考えれば――執事の仕事に大失敗しているのは一目瞭然だからだ。


「……だったら今回も、やるしかねぇ」


 一人歩き始めながら、俺は思う。

 この窮地を切り抜けるには、スラム街伝統のアレをやるしかないと。


「公爵様よぉ……。これをやるのは久しぶりだが」


 生き残れさえすれば、どれだけ傷を負っても構わない。

 自爆上等。

 とにかくその場を凌げればいい。


 国の頂点に位置するほど偉い人へ向け、国の最底辺で使われる流儀で挑む。


 まあ、結局いつものことだ。

 どこまで行こうと何があろうと、最後のところではこれしかない。


「見せてやるぜ、世紀末ってやつをな……!」


 今回の戦場だけでなく、今まで過ごした人生の半分で散々こき使われたのだ。

 むしろ今までの貸しまで、まとめて返済させてやろう。


 などと思いながら。

 俺はこれから始まる決戦に向けて、策を練り始めた。




 初のメインメンバー全員集結+悪役令嬢とメインヒロインの共闘という、熱い場面のはずが。

 第一章からずっと最強と呼ばれていた男が動いたことにより、チート兵器で片付きました。


 普通だとあり得ない展開ですが。

 まあ、それもこの物語らしくていいかなと思います。



 次話。六十余年の月日が流れ、時代は移り変わる。

 アランが己の人生を振り返った時。彼は何を思うか。


 次回、エピローグ。


 「執事の物語にタイトルを」



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[良い点] タイトルがGガン
[良い点] そば [一言] 触発されて緑のたぬきを購いました。つるん。
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