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第十三話 借金地獄


 この作品は、税金をきっちり取り立てていく系ファンタジーです('ω')



 殿下から発せられた不穏な言葉。



「あっ」



 の後。俺はじっと殿下を見つめ続けていた。


 十秒くらい目を逸らしていた殿下は、ちらちらと俺を横目で見ながら言う。



「……あの、これは早めに知った方がいいと思うのだけれど、えっとね」

「まだ知らなくてもいいんじゃない? 帰ったら話すわ」



 どっちだよ。というかお嬢様、何か知っていたなら教えてくれよ。


 何だったんだよ、さっきの会話はよぉ!?


 と、俺が内心で地団駄を踏んでいると。

 殿下は苦笑いしながらお嬢様へ言う。

 


「リーゼ、君も知っていたのなら、アランに教えてあげればいいのに」

「よく調べないで話すのもね……。アランに悪いし、心の整理も必要でしょう? だから、日を改めようと思ったの。宮殿から家までは距離があるし、ここでは一人になることもできないわ」

「あの……何のお話でしょうか?」



 俺が聞くと、二人とも目を背けた。

 何だろう? 非常に怖い。



「アラン。君は本当に元レインメーカー伯爵家の人間で間違いないんだね?」



 俺が二人をじーっと見つめていれば、メンタルの弱い殿下が先に折れた。



「両親の顔もうろ覚えですが、間違いありません。実家には紋章がありますし」

「……ということは、君は家を再興したことになる」

「え、ええ、名誉なことです」



 殿下が言い淀み、俺の不安はどんどん募っていく。

 家の再興というのは名誉なことではないのか? 一般的にはそういう認識だと思うのだが。



「あのね、アラン。貴族には先祖伝来の利権……権利や宝物がつきものなんだ。家が再興されたら、可能な限り取り戻させるという決まりがあるんだよ」

「厄介なことに、それが努力目標じゃなくて義務なのよね」



 本題に入る前のジャブなのだろうが。

 それだけ言われても意味不明だ。



「可能な限り伯爵家ゆかりの品を集めることが、義務ですか?」

「ああ、そっち(・・・)じゃないの。まず、権利を取り戻したら義務もセットで付いてくるでしょう?」



 権利と義務。ねえ?

 領地から税金を取る権利を取る代わりに、領地を治める義務がある。

 というような話だろうか?



「この辺りはアランが習っていない範囲だものね……ピンと来なくても仕方ないわ」



 俺の親は法衣貴族だったはずだ。所謂(いわゆる)王宮勤めで、領地があるなんて話は聞いたことがないのだが。

 俺が一体何の義務を負うというのだろうか?



「取り潰された家の利権や宝物は、王家が接収して、別な貴族に恩賞で下賜することがあるんだ」

「えっと。はい」

「でも家が再興して、まだ接収した物が残っていれば。王家から新しい家に返還される仕組みになっているんだよ」



 伯爵家が持っていた権利や宝物は可能な限り国から返してもらえる。



「ついでに、伯爵家として投資していた事業なんかがあれば、再興した時点で分配金を受け取れたりするわ」



 親父とお袋が何かの事業に投資していたら、その金は俺が貰っていい。


 宝物を取り戻すのが義務ということは、人手に渡っている物があれば取り戻す努力をしろということだ。 

 だが買い戻しは可能な限り(・・・・・)である。先祖のお宝なんぞに思い入れはないし、無理なら諦めればいい。



「全て、いいことのように思えますが……」



 今のところ、特に悪いところが見つからなかった。

 ならば、この気まずい表情の理由は何だろう。


 逆に不安になる俺に向けて。

 徐々に、殿下は核心に入ろうとしていた。



「一概にいい事とも言えないんだ。貴族ではなくなるからと国に接収されて、手放したもの(・・・・・・)が全て戻ってくることになる。例えばアランの実家だけれど……今は君の(・・)家ではないだろう?」

「ああ……そう言えば、そうですね」



 五年も前のことだからよくは覚えていないが。

 国のお役人から、「追い出すのも可哀そうだから、暫くは住んでいていい。次の持ち主が現れるまで管理人として扱う」というような説明があったはずだ。


 おかげで誰も来ない屋敷の草むしりに追われる毎日だった。

 途中からは日課のようになっていたが、よく投げ出さなかったものだ。



「有体に言えば借家になっていたのだけれど、持ち主が正式にアランになる。つまりだ、家の所有権を得る代わりに発生する義務もあって、その……」



 言い方がまどろっこしい。

 ああもういいや、ズバっと聞こうズバっと。



「殿下。ストレートな言い方で構いません」

「……つまり。伯爵家の豪邸にかかる、固定資産税を払う義務が発生する」



 税金?

 ああ、そう言えば俺の給料からも毎月四割ほど引かれているな。

 と、ようやく腑に落ちる。



「それは、いかほどになりますでしょうか?」

「こればっかりはピンキリよね。私たちアランの実家を見たことなんてないし……。その辺りが分からないから黙っていたのよ」



 そうか、馴染みがなくて忘れていたが。

 家や土地を持っていたら税金がかかるものだったか。


 しかしどうして黙っていたのだろうと思えば。

 殿下は、目線を俺から外しながら言った。



「概算で良ければ、だけど。伯爵家の屋敷は確か金貨2万から4万くらいが相場らしいから……税は安くて金貨600枚。高ければ1200枚ほどかな」



 この間習ったが。王都住民の平均年収が、金貨で200枚くらいだったはずだ。


 俺が今公爵家から貰っている使用人見習いの年収は80枚。

 そこに執事見習いの手当が付いて、大体金貨120枚。

 平均の半分を少し超えたくらいだ。


 もちろん昇給はあるし、成人すればそれなりに上がるのだが。

 この給料でその金額を支払うのはキツい――


 ……あれ?



「一般人には支払い不可能よね」

「あ、あはは……。あのー、もし、もしですよ? 支払いができなかった場合にはどうなってしまうのでしょうか?」



 ヘタすれば年収の十倍じゃね?

 という考えに至った俺へ向けて、目を泳がせながら殿下は言う。



「……借金奴隷として、鉱山に送られる。かな……」

「取り立てるのが国だから逃げられるわけもなし……というわけで、今日からアランは借金地獄なのよね。あ、万が一レインメーカー家に借金があれば、それも上乗せよ」



 お嬢様、貴女という人は。


 今度、彼女にデリカシーというものを教えよう。

 一度きっちり教えなければいけない。


 こういうときは何か解決策を出すか、励ますものだろう。

 なあ、殿下。


 俺はエールハルト殿下なら何かいいアイデアを、と思い振り向いたのだが。

 彼は途轍もなくぎこちない。

 顔がブリキでできているのかと思うほど、硬い笑顔を浮かべていた。



「だ、大丈夫! 分割払いはできるはずだよ!」



 顔を見れば分かる。

 それが相当苦しい手だということは。


 お嬢様にはデリカシーが足りないが、殿下には演技力が足りないようだ。



「……仮に分割したとして。何年くらいで払い終えますか?」

「少し待つんだ、計算してみる!」



 殿下は後ろに控えるメイドさんから紙と羽ペンを受け取り。

 さらさらと計算式を作っていく。



「ここはこれくらいか?」

「ここの税率が……こうじゃない?」

「そうだね、これが五年分で……」



 などと、真剣な表情のまま呟き。

 お嬢様と相談しながら、税金を計算していった。


 もうそろそろ完成か? というところで――彼のペンがピタリと止まり。


 計算式の答えを、横からひょいと覗き込んだお嬢様は。

 すぐにプイと顔を逸らし、殿下の額からは冷や汗が流れ落ちていった。



 ……え?





 アランの年収、手取りで金貨70枚(200万円ほど)

 毎年の税金、最低でも金貨600枚(1800万円ほど)


 200万-1800万×5年分=


 まあ貴族ならそれくらい払えるよね。

 払えない?

 よろしい、ならば鉱山だ。


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