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国内有数の縁結び神社にて。
いつのまにか案内役を買ってでた小夜が、柵でかこってある神木を示して、
「こちらのご神木のそばで接吻されたカップルは、永遠に、幸せに結ばれ続けるとのことです。あとカップルでなくとも、効果はありです」
カップルでないのに効果ありって、ちょっと問題があるような。
里穂がなぜか顔を赤くしている。
「これ以上、絆が強くなったら、即結婚ものね。ね、高尾?」
「……」
里穂のコメントが意味不明だなぁ、と思う。
すると灰色の脳細胞が活性化して、やっと気づいた。
「いや、なんでキスすること前提になっているの。しないよ、里穂」
「えっ!?」
「なんで驚くの」
千沙が真面目な表情で発言した。
「それにしても、キスのことも『接吻』と言うと、響きがよりエロくなるよね」
千沙が里穂なみにIQの低いことを言っている(里穂に失礼だけど)。
しかし考えてみると、旅行にきてからはこんなのばかりだった。
「じゃ水沢くん。ちゃっちゃと済ませちゃおうか、キス。はい、顔こっちに向けて」
「自然な流れをよそおって、なにキスしようとしてきているのかな」
スマホをいじっていた小夜(ストーカーアプリをチェックしているに違いない)が、事務的に言う。
「あえて申しませんでしたが、ご神木の効果は、一人に対して一度だけです。すなわち、水沢さんとのカップリングはひとつのみです」
こんどは里穂がなにやら深刻そうに言う。
「だけど、いまさらキス? という感じもするわね。それだと逆走していることにならない? せっかく順風満帆に、ハメ撮りまでいったのに」
何をもって順風満帆というのか知らないけど、里穂、妄想と現実の区別がつかなくなってきているんじゃ?
あと、だからキスすること前提で考えるのは、やめなさい。
小夜が余計な助言。
「渋井さん。人前で接吻となりますと、レベルはかなり高いかと。イチャ付いている度が」
里穂、朗らかに。
「確かに、そうよね!」
対して千沙は、面白くなさそう。
「なんで里穂がキスする気まんまんなのかな? 水沢くんの望みも聞いたほうがいいと思うよ」
「ふふん。高尾は、あたしを選ぶに決まっているでしょ。ハメ撮りした仲よ」
「だからそれ、妄想の世界の話じゃない」
「なんですって!」
小夜が柏手を打って、注意をひいた。神社だけに。
「神様の前で喧嘩などしないように。でしたら、お御籤で決めましょう」
うーん。とりあえず、僕の望み聞く気ゼロだよね。
「にしても、初詣以外でもお御籤って引けるものなんだね」
そして僕の素朴な感想は、思い切り無視された。
「お御籤で、どう決めるの?」と千沙。
「最も良い運勢だった方が、はれて水沢さんと接吻できるのです」
いやいや。お御籤をそんなのに利用したら、罰あたりだから。
注意しようか迷っていると、真紀さんがかわりに言ってくれた。
「千沙、里穂。やめたほうがいいよ。ゲーム目的でお御籤を引くのは、罰当たりだから」
さすが常識人の真紀さん。頼りになる。
「なら真紀は参加しなければいいよ。はい、滝崎真紀は不戦敗で。というわけで、里穂。一対一の勝負だね」
「望むところよ」
かくして真紀さん、あっけなく切り捨てられる。
あまりの展開の早さに、真紀さんはしばし呆然としていた。
何はともあれ、千沙と里穂の一騎打ちだ。
……いやまて、僕はまだ接吻するとか承諾した覚えはないぞ。




