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ここで思いついたことがある。
朝食に行くのに時間がかかれば、そのうち真紀さんか千沙が呼びに来るはず。
そうなると、さすがに小夜もこのゲームを中止せざるをえなはずだ。
いまやるべきことは、時間稼ぎとみた。
「太腿の定義については、僕も一考してみた。すなわち、それは科学的見地からして──」
「時間稼ぎをされているようですが、果たしてそれが正しい判断でしょうか? 千沙さんが乱入して、本当に平和的な解決に至ると?」
うーむ、小夜の指摘ももっともだ。
やるべきは時間稼ぎではなく、とっとと済ませることだった。真紀さんと、とくに千沙が来る前に。
「……さわらせてください」
おかしい。なぜこうなるのか。
「いいわよ、さわりなさい高尾」
と里穂。
では遠慮なく。僕が手をのばす。
とたん里穂が顔を真っ赤にして、意味なく艶っぽくあえいだ。
「ひゃんっ!」
「里穂! そういう反応いらないから! というか、まださわってないよ!」
「気分的には、もうべったりさわられていたのよ。気分、大事」
「ならもう、実際にさわらなくていいのでは?」
「それはこれとは別──あんっ!」
今回は本当にさわった。
あたたかく、なめらかだ。
小夜が思い出したように言う。
「わたくし、本当にお腹が空きました。よって、最後の胸は──」
「じゃ中止?」
と期待を抱いて聞いてみたけど、冷ややかな視線を返された。
「ゲームの美味しいところを、なぜ取りやめにせねばならないのですか。テンポ良くお願いしたいだけです」
「そうよ、高尾。テンポが大事」
里穂のテンションは、朝のそれではないぞ。
こうなったら仕方ない。僕も自棄だ。テンポよく──
両手を伸ばして、里穂の両胸に押し付けた。やわらかい、もちもちしている。
小夜がぐっと近づいてきて、暗示にかけるように言ってくる。
「もみましょう」
「もむ──まないよ」
慌てて手をはなした。
里穂はなんだか惚けた顔。
小夜はうなずいて、
「渋井さんは天国に行きましたか」
「なんか、いやな言い方」
こうして長い朝は終わったのだった──いや、まだ朝食前イベントが済んだだけだけど。




