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「いや、僕も知識豊富というわけじゃないけど──これだけは断言できる。これはハメ撮りではないと」


「何よ高尾。それじゃ、ハメ撮りというのは、どういうことをしたら該当するのよ?」


「それは──」


 まてよ怪しい。

 里穂はハメ撮りのすべてを知っている上で、僕にこんなことを聞いてきているんじゃ?


 しかし里穂の瞳をのぞけば──いや、これは本当に分かってないぞ。


「えーと。もしかすると、すでにハメ撮りはクリアしているのかもしれない」


 なぜかここで誇らしげな顔になる里穂。


「当然よ。これで千沙に自慢できるわ」


「え。千沙に言うの? なんて?」


「高尾とハメ撮りしたって」


「……」


 きっと恐ろしい誤解の嵐が起こり、僕は巻き込まれることだろう。

 しかし、いまは目の前の難所に対処することだけを考えよう。


 小夜が舌なめずり──したように見えた。


「さて、さて。では、次にいきましょうか。つづいて水沢さんがさわるのは、太腿ですか、胸ですか?」


「というか、さわることは確定なの?」


 意外なことに小夜は首を横に振って、


「いいえ、確定ではありません。水沢さんが己は夢遊病ではない、と証明できるのならば」


 これに残念そうな反応をするのが里穂。


「えぇっ! もうこれで終わりなの? あたしの出かかった涎はどうしてくれるの!」


 花も恥じらう乙女というのは幻想か。


「ですが証明できるのですか、水沢さん。自分が寝ている間のことを。夢遊病ではないし、眠りながら渋井さんをさわってはいないと。そう証明する能力が水沢さんにはおありなのですか?」


「そうよ! そうよ!」


 と、小夜の狙いが分かったようで、里穂も加勢する。里穂め。いつのまにか、小夜の軍門にくだっちゃって。


 しかし、さすが小夜。なかったことをなかったと証明する難しさよ。


「……できない」


「では、太腿か胸かですね。さ、朝食の時間が迫っていますよ」


「なら太腿。はい、終わり」


 素早い突きで、里穂の右太腿にふれた。


 里穂が不満そうに言う。


「え。いまので終わり? さわられたというより、突きを入れられただけなのだけど」


 小夜も同感らしい。つまり、面白みが足りなかったと。


「渋井さんのご指摘はもっともです。水沢さん。その右手で、べたりと、太腿にふれていただかなければ。そもそも、いまさわられたのは、太腿というより膝ではありませんか?」


「そうだった?」


 小夜が難しそうな顔で、


「太腿の定義をあらためる必要がありますね。太腿とは厳密には、股関節から膝までのあいだのこと。しかし、ほとんど膝ともいえるところをさわっても、面白みに欠けます。もっと股関節の近くでなければ」


「そうよ、そうよ!」


 と、深く考えることを放棄中の里穂。



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