94
「いや、僕も知識豊富というわけじゃないけど──これだけは断言できる。これはハメ撮りではないと」
「何よ高尾。それじゃ、ハメ撮りというのは、どういうことをしたら該当するのよ?」
「それは──」
まてよ怪しい。
里穂はハメ撮りのすべてを知っている上で、僕にこんなことを聞いてきているんじゃ?
しかし里穂の瞳をのぞけば──いや、これは本当に分かってないぞ。
「えーと。もしかすると、すでにハメ撮りはクリアしているのかもしれない」
なぜかここで誇らしげな顔になる里穂。
「当然よ。これで千沙に自慢できるわ」
「え。千沙に言うの? なんて?」
「高尾とハメ撮りしたって」
「……」
きっと恐ろしい誤解の嵐が起こり、僕は巻き込まれることだろう。
しかし、いまは目の前の難所に対処することだけを考えよう。
小夜が舌なめずり──したように見えた。
「さて、さて。では、次にいきましょうか。つづいて水沢さんがさわるのは、太腿ですか、胸ですか?」
「というか、さわることは確定なの?」
意外なことに小夜は首を横に振って、
「いいえ、確定ではありません。水沢さんが己は夢遊病ではない、と証明できるのならば」
これに残念そうな反応をするのが里穂。
「えぇっ! もうこれで終わりなの? あたしの出かかった涎はどうしてくれるの!」
花も恥じらう乙女というのは幻想か。
「ですが証明できるのですか、水沢さん。自分が寝ている間のことを。夢遊病ではないし、眠りながら渋井さんをさわってはいないと。そう証明する能力が水沢さんにはおありなのですか?」
「そうよ! そうよ!」
と、小夜の狙いが分かったようで、里穂も加勢する。里穂め。いつのまにか、小夜の軍門にくだっちゃって。
しかし、さすが小夜。なかったことをなかったと証明する難しさよ。
「……できない」
「では、太腿か胸かですね。さ、朝食の時間が迫っていますよ」
「なら太腿。はい、終わり」
素早い突きで、里穂の右太腿にふれた。
里穂が不満そうに言う。
「え。いまので終わり? さわられたというより、突きを入れられただけなのだけど」
小夜も同感らしい。つまり、面白みが足りなかったと。
「渋井さんのご指摘はもっともです。水沢さん。その右手で、べたりと、太腿にふれていただかなければ。そもそも、いまさわられたのは、太腿というより膝ではありませんか?」
「そうだった?」
小夜が難しそうな顔で、
「太腿の定義をあらためる必要がありますね。太腿とは厳密には、股関節から膝までのあいだのこと。しかし、ほとんど膝ともいえるところをさわっても、面白みに欠けます。もっと股関節の近くでなければ」
「そうよ、そうよ!」
と、深く考えることを放棄中の里穂。
気に入って頂けましたら、ブクマと、この下にある[★★★★★]で応援して頂けると嬉しいです。励みになります。




