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選択肢もなさそうだったので、仕方なく里穂のわきを触れることになった。
「指先でちょんとつつくでいいね?」
里穂が小首をかしげて、なぜか小夜に聞き出す。
「つつくのでいいのかしら?」
というか、もう完全に小夜に主導権を与えているよね。どことなく嬉々として。すべては小夜に言われたからという言い訳を、先に作っておこうという企みが、すごく感じられるんだけど?
いまやすべてを掌握した小夜が、また余計なことを言いだす。
「指先でふれただけで何が分かるというのでしょうか?」
「確かに、分からないわよね。まったく分からないわよ、高尾。じゃあ、さわりレベルは50くらい?」
いつからレベル制度になったんだ。
「そうですね。渋井さんが手をあげて、オープンになったわきに水沢さんがベッタリとさわるのでも良いでしょう。ですが、わたくしが提案するのは、別パターン。ほぼ閉じ合わされた渋井さんのわきへと、水沢さんが片手をさしこむのです。たとえていうならば、挿入のごとき」
その『たとえ』、絶対に余計だったよね。
「挿入っ!」
と、顔を真っ赤にした里穂。
早く次へと進めよう。
「わきは、右でも左でもいいね?」
何にでも口をはさみたいらしい小夜が言う。
「いえいえ、右のわきか左のわきかの選択は重いですよ」
「それって関係あるの?」
小夜に乗っかることに決めたらしき里穂が、うむうむとうなずく。
「高尾。右のわきか、左のわきか。それって、とっても大きいことだと、あたしも思うわよ」
「……じゃあ、右」
「右だとどうなの、小夜?」
「欲情しています」
「欲情していたのね、高尾!」
「……もういいから、早くすませよう」
たかが、わき。
されど、わき。
とくに深く考えることもなければ、里穂のわきに手をさし込むことなど、なんとも思わなかったはず。
ところが、こうも意識させられると、変に意識してしまうではないか。
これは小夜のせいとばかりは言えない。
なんだか知らないけど、やたらと里穂も興奮しているので。
「なんか恥ずかしいわ。まって。まずシャワー浴びてくる? シャワー浴びてくるわよ」
僕としては、何を言ったらいいものやら。
ところが、ここまでかき回した小夜には言い分があった。
「朝食の時間があるのですよ。冗談はやめてください」
「あ、そう。そうよね」
「それはそれとして。記念に動画でも撮影しておきましょうか?」
「え? じゃ、せっかくだから」
何がせっかくだ。しかし女子二人が結託した以上、こちらに打つ手はない。
まぁ、別に撮られて困るような動画でもないし(たぶん、きっと)
というわけで、里穂の右のわきに片手を差し込む。
ひと肌のぬくもり。
「……さ、里穂。これで満足?」
里穂はハッとした様子で、
「もしかして、これってあれ──えーと、ほらなんて言ったかしら? えーと」
小夜がうなずき、
「ハメ撮りですか? あれは当事者のみだけで撮影することですが、まぁ気持ち的には間違ってはいませんね」
「きゃあっ! 高尾とハメ撮りしちゃったわ!」
眩暈がしてきた。
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