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「処女膜にはさほど血が供給されていませんので、損傷が小さければ、出血は少ない──それどころか、無出血ということも大いにありえるのです」
小夜が講義調で語るが──
「いやいや、だからいつからいたの小夜」
そっちのほうが重大だ。
「第一、ドアの鍵はロックしていたはず。どうやって侵入をしたのさ?」
「わたくしの手元に鍵があることをお忘れなく」
そうだった。最も渡してはいけない人物が、鍵を所持していたのだった。
里穂がスマホで時刻を確認。
「まだ朝の5時よ。早起きすぎじゃない?」
「わたくし、早寝早起きを信条としておりますので」
ヤンデレの生態とは、早く寝て、早く起きるというものなのか。またひとつ勉強になった。
里穂が何の気なしという感じで尋ねる。
「けどそんなに健康的な生活で、よくストーカー行為ができるわね」
「小型の監視装置とは、わたくしのような健康的な乙女のために生まれたとは思いませんか?」
小夜の中ではヤンデレとは、『健康的な乙女』らしい。
「……なんか知りたくもないことを知ってしまったわ」と里穂。
ふと思い出したように、小夜が主張する。
「そもそも、わたくしはストーカーではありません」
一応、否認はしておくのか。
「まった、まった。話が脱線している。小夜、一体いつから侵入していたんだ?」
僕の質問は妥当かつ最重要だと思うけど、里穂に押しやられる。
「そんなことより、仮に血がでなかったとしても、事におよんでいたら分かるはずよね? たとえ記憶がなかったとしても?」
小夜が答える前に、僕はきっぱりとした口調で断言。
「だから、昨夜はなんにもなかったんだって」
いまだ、かけ布団をまきつけたまま、里穂がくちを尖らせて言う。
「ならどうして、あたしは裸だったのよ。というか、まだ裸だけど」
そうだった。
「……まず服を着なさい」
僕がよそを向いている間に、里穂が素早く衣服を着た。
念のため、聞いておく。
「下着をはき忘れちゃいないだろうね里穂?」
「高尾、あたしを何だと思っているの?」
この間、小夜はお茶を淹れていた。自室のようにリラックスしている(そして早起き体質だけあって、目もばっちり覚めている様子)。
里穂が正座して、
「本題よ、小夜」
饅頭をかじりながら、小夜が小首をかしげる。
「はい?」
里穂がぐっと身を乗り出して、
「しょ、初体験って、痛いのよね? つまり、翌朝になったって分かるはずよね?」
「痛みですか──」
小夜は緑茶をずずずっと飲んで、
「わたくしもまだ経験はありませんが、話に聞いたところによりますと──たしかに大多数は痛みを感じるようです。
しかしなかには、初めから気持ちいい方もいらっしゃるとか。つまり快楽を感じていたのならば、痛みが翌朝まで残ることなどありえません」
「ふーん。痛いか気持ちいいかって、体質的なものなのかしらね」
小夜はじっと里穂を見ながら、
「単純に、エロかどうかでは?」
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