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一難去ってまた一難。
お次は千沙だった。
僕が部屋に入ると、千沙はそわそわしていたが、ハッとしてソファに座り悠然と構える。少なくとも悠然と構えたかったらしい。
「水沢くん。里穂の誘惑には負けなかったようだね。やっぱり本命は私だったわけだ」
千沙は浴衣姿だった。素足にスリッパを引っかけている。
「本命も何もないけどね」
あと誘惑にかなり負けそうだったけども。まさか小夜に助けられるとは。いや、そもそもの元凶は小夜なんだけどね、さらにいえば陽菜さん。
「千沙。先に言っておくけど、勝手に脱ぎ出したりしないように」
「勝手に脱ぎ出すなんて、そんな痴女みたいなことするわけないよね?」
里穂、間接的に痴女呼ばわりされているよ。
ふと気づく。千沙の右手が後ろに隠れていることに。何か凶器を隠し持っているらしい。
僕の視線に気づいたらしく、千沙は謎めいた笑みを浮かべながら、右手を前に出してきた。
「これが気になっているみたいだね、水沢くん」
「まさか、それは──」
千沙は割箸を二本握っていた。
「なにそれ」
「見てわからないかな。温泉旅行の定番といえばこれ、王様ゲーム」
え、王様ゲームって定番だったの。
いや、そんなことよりも。
「二人でやる王様ゲームとか、聞いたことないんだけど」
「一対一の攻防が楽しめるよね。さっそくやるよ。水沢くんに拒否権はないからね。王様の割箸は、先端が赤く塗ってあるから」
ふむ。いきなり脱がれるよりは、対応しやすいかな。
案外、里穂より千沙のほうが難易度は低めかも。なんの難易度だか、自分で言っていてもよく分からないけど。
割箸を選んで──選ぶも何も二本しかないけど──千沙の手から抜いた。
赤い印がある。王様は僕か。
「さ、命令して王様」
「二人しかいないから、もう相手に命令することになるよね」
注意するべきは、命令の内容。テンション低め低めの内容でいこう。というのも、この手の遊びはどんどん過熱していくものだから。
「じゃぁ、3回回ってワンと言って」
低レベルな罰ゲームでお茶をにごす作戦だ。
決まった、と思ったけど。
なぜか千沙が頬を赤らめて、恥ずかしそうに言う。
「私のことを、ワンちゃんのように服従させたいんだね。水沢くん、実はSだった?」
思春期の想像力、恐るべし。
千沙は辱められたようにして、3回回ってワンと言った。
「こ、これで満足?」
「……はい」
デコピンにすれば良かった。しかし悔いても仕方ない。この経験を次に生かそう。
ところが次に王様となったのは千沙だった。
まぁ、3回回ってワンを言うだけで、恥ずかしそうにしていた千沙だ。
過激な内容ではあるまい。
千沙は嬉しそうにテーブルに身を乗り出して、ポッキーの箱を取った。
「じゃ命令するよ。水沢くん、定番中の定番、ポッキー・ゲームを私とすること」
え、ポッキー・ゲーム?
噂には聞いたことがあるけどお目にかかったことはない、アレ?
二人がポッキーの両端をくわえて同時に食べ進むという、あのゲーム?
千沙の恥ずかしいラインが、よく分からないんだけど。
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