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意識を取り戻したところ──
小夜の部屋に寝かされていた。僕以外には誰もいない。
温泉旅館の浴衣を着ている。しかし着た覚えがない。意識を失っている間に、誰かに着せてもらったのだろう。
誰かに──
あれ。
たしか大浴場で意識を失ったはず──裸で。
ハッとして廊下に出たところで、真紀さんとぶつかりそうになった。言うまでもないけど、浴衣を着ている。まだ乾かしてないようで濡れたままの髪が、なんか艶っぽい。
「高尾くん。良かった、意識を取り戻したんだね」
「ごめん、真紀さん心配かけて──」
そこでハッとした。そうだった。真紀さんに膝枕してもらった時、僕の意識は閉ざされたのだった。
真紀さんのむきだしの膝に──
という事実も大事だけど、もっと忘れていけないのは僕が全裸だったこと。
僕が何を思い出したのか気づいたらしく、真紀さんは言う。
「大丈夫だよ、高尾くん。そんなに見てないから」
頬を染めて視線をそらしているのは、どう解釈したらよいのでしょうか。
「あの、『そんなに』という発言が引っかかるのは僕だけ?」
「とっさのことだったから、少し見ちゃったけど。じっくりは見てないよ」
やけに力をこめて言う真紀さん。
そして沈黙。
廊下の向こうから、小夜がてくてくと歩いてきた。今ばかりは、小夜の登場もありがたい。
「あ、水沢さん。お目覚めですか」
「まぁね」
「滝崎さんの両脚の間に急接近したところで、意識を失ってしまわれましたからね」
前言撤回。誰かこの人を、そこの窓から外にぶん投げて。ここ2階だから、うまくすれば息の根を止められるはず。英樹には悪いけど(いや英樹には泣いて感謝されるかも)。
「井出さん。あなたは本当に──セクハラだよね!」
そう言って、顔を真っ赤にした真紀さんが歩いていく。
一方、小夜は『してやったり』という顔。
僕は口を開いたが、何も言うこともなかった。いまさら何を言えというのか。
小夜が歩いてきたほうから、こんどは里穂がやってきた。
「高尾、起きたんだ。ほら、水分補給は大事よ」
そう言って、コーヒー牛乳の瓶を放ってくる。
なぜ温泉上がりにはコーヒー牛乳が定番なのだろうね。
「ありがと里穂」
ありがたくコーヒー牛乳を飲む。
すると里穂が近づいてきて、僕の耳元の近くで言う。
「ねぇ高尾」
「え?」
「浴衣を着せてあげたの、あたし」
噴いた。
「里穂、君は本当に──セクハラだな!」
「なによ。記念撮影しようとしていた小夜を止めたのは、あたしなのに」
「え……」
小夜を見たら、足早に退散していった。
あともう少しで、さらなる弱みを握られるところだったのか。
「里穂──ありがとう」
「な、なんなら──今夜、あたしの部屋に来てもいいのよ!」
「それはそれ、これはこれ」
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