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つづいて千沙が来た。
といっても、視線はそちらに向けてはいないので──
「なんでキミたち、そこで固まっているの?」
という素朴かつ順当な質問の声音から分かったんだけど。
「話せば長いんだよ」
そう答えるのが精いっぱい。
小夜はリラックスしているが、一方、里穂は緊張している。その緊張がこちらにも伝わってくるわけで。
というか、この裸同士で密着はいろいろとヤバい。
密着といっても、実際に肌が触れているわけではないのだが。
しかし、数センチ隣に裸の里穂がいると思うと──想像力が刺激される。
すると小夜が言う。
「水沢さん。もう少し、こちらにいらっしゃったらどうです? 触れ合うくらいが丁度良いかと。ね?」
「いや、『ね?』じゃないよ。ナチュラルに嫌がらせをしないでくれる?」
「嫌がらせとは心外ですね。わたくしの裸身に、魅力がないということでしょうか? 心が傷つきます」
「そんなつもりで言ったわけじゃないんだけどね」
小夜が『傷つき度0パーセント』と分かっていても、そこまで言われるとつい罪悪感がうずく。
「では、こちらにどうぞ」
1センチだけ動こう。
ところが僕が動こうとしたところ、里穂が肩をつかんでくる。
「り、里穂?」
「高尾、行かせないわよ。ここで行かせたりしたら、あたしの敗北な気がするわ」
「ええ、なんの勝負?」
まずい。里穂の正気が溶けてなくなりつつある。というか、もうのぼせた?
「高尾、逃げないでよ」
里穂がついにくっ付いてくる。熱を帯びた肌が触れる。触れちゃダメでしょ。
「逃げる。逃げるしかない」
しかし小夜が邪魔だ。
やがて体を洗い終えたらしく、千沙がわりと近くから言ってきた。
「逮捕ものだよね、これはすでに」
「そういう冷静なコメントをしている暇があったら、里穂を引き離してくれるかな」
しかし、ここで静観しているような小夜ではなかった。
「これは渋井さんが3歩リードですね。すでに渋井さんは、水沢さんに肌による密着をクリアしています。それも恐ろしい精度で」
「あのさ。そんな煽りに乗る私じゃないよ」
と言いつつ、千沙も近づいてきた。
背後から、千沙が手を伸ばしてきたらしく。よく分からないが、背中を指先で突かれた。
「どう? わたしは突いたよ? 突いたほうが上手でしょう? そうよね、井出小夜」
「判定勝ちにもつれこもうというわけですか? それは消極的ですね」
「な、なんですって!」
僕は冷ややかさと混乱の中で言った。
「みんな、のぼせすぎだよ!」
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