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試練が待っているときは、時間が過ぎるのも早い。
よって混浴待機中の時間が過ぎるのは早い。
新しいタイプの相対性理論だね。
というわけで、混浴時間になった。
大浴場に向かう途中で、小夜が言う。
「先に注意させていただきますが、水沢さん」
「なにを?」
「性犯罪として通報せねばならないような事態だけはご遠慮ください」
「混浴イベントを押し付けておいて、よく言うなぁ~」
このとき、真紀さんたちはまだ大浴場に向かっていない。
そこで僕は大急ぎで脱衣所に入った。そして素早く衣服を脱ぎ、タオル片手に浴場内へ。真紀さんたちが来る前に、湯に浸かって目をつむっていればいいじゃないか作戦。
ところが小夜が機先を制してくる。
「温泉マナーに反しますよ水沢さん。湯に浸かる前に、ちゃんと身体を洗ってください。あとタオルは湯舟に入れないように」
「あ、そうだよね」
なんとなく振り返ったら、生まれたままの姿の小夜がいた。
タオルは持ち込んでいたが、頭を巻くのに使っていたのだ。そして両手はだらりと下げている。
「あ、ごめん!」
慌てて視線をそらす。
「それは良くないですね、水沢さん。それは失礼きわまりないです」
「だから、謝ったよね?」
「いえ、水沢さんがわたくしの裸を見たことではありません。その逆です」
「逆?」
「いま慌てて視線を逸らしましたね? それこそが失礼の極みというのです」
「いやいや。恋人でもないのに裸を見られたら、小夜さんも嫌だろうと」
「まるで、わたくしの裸を見るのがおぞましいようではありませんか。この井出小夜、たいへん傷つきました」
えー。信じられないことを言いだしたのだけど、この人。
もちろん本気で傷ついたはずがない──とはいえ、否定はちゃんとしておこう。
「そんなことはないんだけど」
「では、視線をお戻しください。わたくしなどは、先ほどから水沢さんを熟視しておりますので」
なんか熟視されていた!
タオルで隠すべきところは隠しておいて良かった。
「さぁ、どうなのですか水沢さん。わたくしの裸身は見られないというのですか?」
困った。小夜の裸を見るのは、恥ずかしい。なぜこっちが恥ずかしがらないといけないのか疑問だけど恥ずかしい。
しかし見ないと、小夜をなんか侮辱したことになる──らしい。逃げ道はないのか。逃げ道は。
これ以上、小夜に遊ばれるわけにはいかないぞ。
「……いや、待った。君はもう、ただの痴女では? 僕は、痴女の裸を見る趣味はないよ」
「ほう。うまく逃げましたね。まぁ、良いでしょう」
引き下がった小夜は、気配からしてシャワーのほうへ歩いていった。
しかし先が思いやられる。
何となく心の中で叫んでおこう。
英樹~、助けて~!
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