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そのときだ。僕は混浴イベントの解決法を見出した。
俗にいう、『必勝法がある』的な。
「まった小夜。僕と混浴することをみんなは了解しているのかな? いまのご時世、無理やりの混浴は冗談では済まない話だよ」
「ご安心ください。これより誓約書に署名していただきますので。こちら専属弁護士にも目を通させました、れっきとした誓約書です」
小夜が、ネコ型ロボットのごとくポケットから取り出した『切り札』。
「ご一読ください」
誓約書には、小さな文字でやたらと書きこまれていた。
「小夜──これは一体?」
「ですから誓約書です。水沢さんと混浴することを了承するという内容──そして、それだけではありません。混浴時において発生するであろう、全てのエッチなことを受け入れるというものです。こちらに署名した瞬間、何が起ころうと警察に訴えることはできません」
つまり、誓約書なしだと警察に訴えたくなることが発生すると?
「誓約書に署名しなければいい話だ」
「水沢さんの署名はすでにされていますので、あしからず」
「えっ、いつ書いたっけ?」
「わたくし、代筆いたしました」
「代筆いたしました──って、いい笑顔で言わないでくれるかな。まぁいいよ。他の3人が署名するとは思えないからね」
「では試してみましょうか」
はじめに里穂の部屋に行った。
話を聞いた里穂は、まさかの速攻署名。
「いいわよ、高尾。ここまで来たら、どこまでも行こうじゃない。泡あわの中で、あたしのエッチなところに触ってくればいいじゃない!」
自棄になっているのか。または小夜に変な薬でも飲まされたのか。
「あとあと薬物検査で訴えられるようなことは致しておりませんよ」
僕が疑いの眼差しを向けたら、小夜がそう言ってきた。
なぜ僕の思考が読めるのだろう。英樹、小夜が怖いです。
つづいて千沙の部屋に行く。
千沙はまず唖然とした。誓約書の話──さらにいえば混浴計画の話を聞いて。
これは断るのではないかな。
しかし、ここで里穂の署名があることに気づく。
「ふ、ふーん。里穂もやる気なんだぁ。じゃ私もここで怖気づいている場合じゃないね。水沢くん。混浴を楽しみにしているよ」
素早くサインする。
ここで小夜の狡猾さに気づかされた。
一番手が千沙だったら、さすがに断った可能性が高い。しかし、すでに里穂の署名があるのだ。千沙の性格からして、それを見たら逃げる選択肢はない。
そして里穂は自棄モードに入っていたので、簡単に署名した。
ということで、最後に真紀さんの部屋に行く。
真紀さんは話を聞くなり、常識的な反応をする。
「それはもう犯罪だよね。私は署名しないから」
ところが、ここで小夜が鋭い攻撃。
「でしたら、滝崎さん抜きで行いますから結構です。当然ながら署名がなければ、混浴はできませんので。滝崎さんだけ別の時間にお入りください」
人間心理として、あからさまに仲間外れにされると抵抗したくなるものだ。
しかも小夜は『署名がなければ混浴できない』と、まるで混浴が特権のような言い方をしている。
そして真紀さんもここで、小夜の罠にはまったのである。
「……まって。ちょっと考え直した。いいよ。みんながそれで了解したなら、わたしだけ参加しないわけにはいかないよね」
というわけで署名する真紀さん。
自室に戻ったところで、誓約書を備え付けの金庫にしまう小夜。
「皆さんチョロかったのです。ね、水沢さん?」
この面子では、小夜には勝てないと気づいた。
やっぱり目をつむって入るしかないらしい。
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