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ひとまず、僕は小夜の部屋に招かれた。
夜まで僕の居場所がなかったので。
最終的には、3つの部屋のどれかを選ばなきゃならない空気感。
真紀さんか、里穂か、千沙か。
今のところ、友達感覚で通りそうなのは里穂な気がする。
「水沢さん。その考えでは、取返しのつかない大怪我をしますよ」
「え、なんだって?」
小夜がグッと近づいてくる。全てを見通しているかのような瞳。これがヤンデレの凄みか。
そういえば英樹の奴、この週末は安心安全だな。僕が小夜を引き付けているあいだ、君は人生を謳歌するんだ。……いや、やっぱり階段から転んで足を折ればいいのに。
「大怪我だって?」
「もちろん喩えですが。無難なところで、渋井さんを選ぼうかと考えましたね? ですが、わたくしが見たところ渋井さんも吹っ切れた様子。水沢さんが選んだのでしたら、これはもう行きつくところまで行くでしょう」
「……夜通しトランプゲームするとか?」
「健全なる青少年ですので、セックスしても問題ないですよ」
ついに明確なるキーワードまで口にしてきたな。
さらに小夜は言うわけだ。
「温泉宿といえばなんでしょうか、水沢さん?」
「……それは温泉以外の何かあるの?」
「さすが水沢さんですね。抜かりありませんね」
「抜かりないって何の話?」
「古来より鉄板というものがあります。それは誰もが『一体いつまで繰り返すんだ?』『もう飽きたんだよ』と文句を言いながら、それでも惹き付けられる。そんな不思議な力を持ったもの。それこそが鉄板」
「前置きが長いけど、つまり混浴イベントか」
小夜が感動した。
「さすがですっ! よくお分かりになりましたね!」
小夜の考えそうなことは、もう分かるようになってきた。いや小夜のバックにいる陽菜さんの思考がか。
しかし思考が読めるからといって、打開策が思いつくわけではない。ずるずると沈み込む底なし沼のごとく。
「しかし、いまどき混浴なんて」
「ですから白鉦旅館に頼みましてね。18時~19時の時間帯は、女湯がわれわれの貸し切りです。ゆえに混浴ゾーンにできます」
「いやいや。そこは僕が普通に男湯に入ればいい話だよね」
「許しません。混浴展開を陽菜お姉さまは希望しているのです。水沢さんの理性を崩して、夜に『誰か』の部屋に突撃することを望まれているのです。誰になるか今からワクワクです」
「なんだって?」
小夜はハッとした様子で、視線をそらす。
「申し訳ありません。今のは失言でした」
「ワクワクって──まさか、僕が誰の部屋に行くかで賭けとかしてないだろうね?」
「賭博など、白鉦学園の生徒がするはずがありません。ただ勝ったら嬉しいだけです」
「……で、陽菜さんは誰だと?」
「もちろん陽菜お姉さまは、千沙さんを信頼されています。千沙さんが水沢さんを寝取り返し、イチャイチャコースに入るものだと」
「じゃ、君はどう見ているんだ?」
「滝崎さん」
「……!」
即答だな。小夜に言われると、何だか暗示にかかるような気がする。
とにかく目をつむったまま体を洗い、湯に浸かるスキルを編み出そう。混浴ゾーンに入る、あと3時間のあいだに。
「では滝崎さんたちをお呼びして、観光に行きましょうか」
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