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白鉦旅館に到着。
小夜が代表者としてチェックインを済ます。
その後、小夜は僕たちに言うわけだ。
「さて、ここに4つのルームキーがあります」
真紀さんがふしぎそうに言う。
「微妙な部屋数だね。誰か2人だけ相部屋ということ?」
このとき僕は何か嫌な予感がした。
これは粉塵爆発が起こる前に感じる嫌な予感だ。粉塵爆発とか体験したことないけど、それでも分かる。
「相部屋のカップリングを決めるのは、水沢さんです」
ほら来た。
常識人の真紀さんが指摘する。
「それだと男女で相部屋になるけど?」
「もちろん、それこそが強化合宿の狙いです。滝崎さんは合宿テーマを理解されずに参加したのですか? 信じがたき愚者ですね、あなたは!」
真紀さん、面食らう。
「ええ、そこまで言われること?」
小夜は淡々とした口調に戻って、
「申し訳ございません。テンションがおかしかったのは認めましょう。では話を戻します。簡単な算数の話に。部屋数は4、人数は5。女性陣がまず各部屋に入ります。そして水沢さんがお決めになるわけです。どの部屋に入って、誰と夜を過ごすのかを。よろしいですね?」
「よろしくない、と言っても無駄のようだね」と僕。
しかし、このまま小夜のペースで進められるのは癪だ。そこで僕は攻撃を仕掛けることにした。
「それなら、僕が小夜の部屋に行ってもいいわけだね?」
小夜ははじめキョトンとした顔で僕を眺め、やがて妙に艶っぽく言う。
「来ていただいても構いませんよ、水沢さん?」
僕はハッとした。
食べられるっ!
「あの、遠慮しておく」
「では実際のところ、3部屋となりましたね。204が渋井さん、205が千沙さん、206が滝崎さんです。ですが水沢さんをお断りする方は、いま申してください。ああ千沙さんには拒否権はありませんので」
千沙はルームキーを受け取り、指先で弄んだ。
「んー、別に水沢くんを拒否したりはしないよ」
「いえですから拒否権はそもそもないと」
「拒否権はある上で、私は水沢くんを拒否しないと言っているの。分かるかな、姉さんの腰巾着ちゃん?」
「腰巾着ですか? それはわたしにとっては、褒め言葉ですね」
小夜と千沙が地味にマウントを取り合っている。
結局、小夜が引き下がった。話を先に進めたかったのだろうね。
「では渋井さん、いかがですか? 水沢さんを受け入れますか?」
これ、拒否されたらそれはそれで悲しい。
里穂は恥ずかしそうに両手をすりあわせていたが──なんか拝んでいるように見えてきた。
「仕方ないわね。高尾を受け入れてあげる。だけど勘違いしないでよ。別にあんたのことが好きなわけじゃないんだからねっ!」
「いえ、そのようなツンデレっぽい感じでしたら、拒否されて構いません。では渋井さんは『拒否』と」
「ウソ、ウソ! いまのは冗談! 受け入れるわ、はい、受け入れまーす」
「必死なところが見ていて面白いので許可しましょう。では滝崎さんは?」
真紀さんはハッとして、僕を見た。それから小夜に対して、挑むように言う。
「私は──いいよ。高尾くんを受け入れる」
「ふむ。まぁ、よろしいでしょう。最後に、では水沢さん。残念ですが、これはハーレム・ルートはありません。1人だけお選びください。しかし、まだ時間はたっぷりとありますので。これからイベントも用意してありますし。その過程で、最終決定してくださればいいですよ。それと、」
小夜がグッと近づいてきて囁く。
「コンドームは、時が来ましたらお渡しします。ご心配なく」
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