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週末デート計画のため話し合いが行われている。
陽菜さんと小夜の2人で。
当事者の僕と千沙は蚊帳の外で、会議室(という名の居間)の外で待機させられていた。
ふいに千沙が覚悟を決めた様子で言う。
「水沢くん。この状況から脱出するためには、思い切った手をでいくしかないよ」
「え?」
「手分けして事に当たろうか。まず水沢くんが井出小夜を仕留める。それから水沢くんが姉さんを監禁する」
「とりあえず僕しか犯罪に手を染めてない気がするんだけどね」
「私は水沢くんのアリバイを証言するから。犯行の時間帯、一緒にインスタ映えするところに行っていたことにしよ」
「インスタ映えするところって、どこ?」
「……ガード下かな?」
ストレスのあまり千沙のポンコツ化が止まらない。
不治の病にかかった人を眺めるように見ていたら、小夜が呼びに来た。
小夜はPCのディスプレイを見せる。
温泉宿のサイトが開いていた。
「こちら、白鉦学園OGが経営しています温泉宿・白鉦旅館です」
旅館名にまで学園が進出している。というか侵略している。
「週末は3日連休ですので、こちらの宿で『強化合宿』を開くことになりました。参加者は、水沢さん、千沙さん、滝崎さん、渋井さんです。監督官として私も同行いたします。残念ながら陽菜お姉さまは御用がありますのでいらっしゃいません。ですが常に連絡を取り、ご指示を仰ぐことができますのでご心配なく」
いまの情報量の凄さ。
文章にしたらたいした量じゃないけど、とにかく言っていることが意味不明すぎて。
「まった、まった。強化合宿ってなに? なにを強化するの」
「そうですね──」
小夜は虚空を見つめ、何やら一考しだす。それから、
「やはり、水沢さんの夜の生活ですか?」
「ですか? じゃないよ」
「これも全ては、千沙さんが水沢さんを寝取り返せるようにするためです。ここまでお膳立てをしてあげようという、お姉さまの優しさ。妹思いなのです」
「残念ながら、僕には旅行に行く余裕はない。金銭的に」
「ご心配なく。私が支払います」
「え、つまり井出家が? そんな悪い──」
「違います。私の個人資産です。ですがお気になさらず、未成年口座を使った株式投資で儲けが出ておりますので」
このヤンデレ、自由に使えるお金までたくさんあるのかぁ。
英樹、残念だが君が逃げ切るチャンスは0だ。
「あのさ。真紀さんも里穂も行かないと思うよ」
「そうでしょうか? まず渋井さんに電話して確認してみます」
さっそくスマホで電話をかける小夜。
「もしもし渋井さんですね、私です……恐怖電話ではありません。井出小夜です……はい? だから恐怖電話? おかしなことを言う方ですね。
ではさっそく本題に入ります。週末に旅行に行くことになりました。『千沙さんが水沢さんを寝取り返す』作戦、通称プランBのためです……プランAは存在いたしません……なるほど、なるほど……では土曜朝6時にお迎えにあがりますので」
電話が終わった。
「渋井さんは喜んで同行されるそうです。どうやら渋井さんには、渋井さんだけの計画があるようですね。私の隙をついてプランCを発動するつもりのようですが、当然ながら阻止いたします」
里穂……プランCって、なに。
続いて小夜は真紀さんに電話をかける。
さすがに真紀さんは来ないだろう。
「もしもし滝崎さんですね、私です。週末、水沢さんと千沙さんが旅行に行かれます。同行されますか? ……では土曜朝6時15分にお迎えにあがりますので」
電話が終わった。
「即答されましたよ、滝崎さんは。もちろんご参加されます」
「……」
「楽しい強化合宿になりそうですね、水沢さん」
「ま、まった! 僕が良くても両親が許さないはずだ。そんな同世代の女の子たちだけで旅行なんて、絶対に許さないぞ。不純異性交遊の疑いありで」
「ではご連絡してください」
母さんに電話したら、父さんも帰宅していた。そこでスピーカー通話にしてもらって、2人に事情を話す。
さぁ、全力で止めてください。
「楽しんできなさい、高尾。だけど避妊だけはちゃんとするのよ」
「楽しんでこい、高尾。だが避妊だけはちゃんとするんだぞ」
僕は電話を切った。
「……なんて、ことだ」
「土曜6時30分にお迎えに上がります」
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