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今日も陽菜さんは本庄家にいた。
この人、他にやることはないのか。
僕たちを笑顔で出迎えて、
「待ってたよ、3人とも。さぁ、さっそく計画を立てよう。名付けて『妹の千沙が無事に水沢高尾くんを寝取り返し、そつなく処女を捨てる』計画を」
この人、常識をどこかに置いてきたんだな。いや捨ててきたんだな。
実は常識人だった(姉との比較により)千沙が、すこし頬を赤らめて言った。
「姉さん。その計画名が不快であることを表明する」
「なるほど。じゃ小夜ちゃん、議事録に書いておいて。『本庄千沙は計画名に不満あり』と」
議事録とは冗談だと思ったら、小夜がノートPCのWordに打ち込みだした。
本当に作成するつもりらしい。
小夜が意見する。
「陽菜お姉さま、確かに計画名は長すぎかと。ここは『まだまだお子様な本庄千沙が大人の階段を上る』計画では?」
煽るね、小夜は。
小夜の千沙嫌いの原因は何か。
うーん。つまり、小夜としては理想の『お姉さん』が陽菜さん。
しかし陽菜さんには、千沙という本物の妹がいる。
だから対抗意識を燃やしているのか。その根底には、千沙への嫉妬があり──
もしくは、単に千沙を弄りたいだけかもしれない。
なんか、そっちのような気がしてきた。
千沙が挙手して、
「私が井出小夜を嫌っているということも、議事録に記録しておいてくれる? 井出小夜が底意地の悪い、ふざけた女だってことを──」
小夜があからさまに溜息をついた。
「議事録は悪口を書くところではありませんよ。大人げないことを言うのは、恥ずかしいですよ千沙さん?」
千沙が怒りの涙目で、僕に何か訴えてきた。
僕は首を横に振っておいた。
白鉦学園はたぶん地獄のような戦場なので、そこで鍛えられた井出小夜には敵わないのだ。ということにしておく。
僕が挙手した。
「部外者が小耳にはさむかもしれないので、ここは単純に計画名『プランB』とかにしておいたらどうでしょうか。無駄に具体的ではなくて」
「プランAがないんだけど?」
「プランAはなんだったの?」
と千沙と陽菜さんが同時に言った。
変なところだけ、姉妹。
「いえ、プランAでもCでもzでもいいんですけども。というか、計画名とかどうでもいいですよね」
陽菜さんは首を横に振って、
「計画名は大事だよ、水沢高尾くん。だけど、このままじゃ先に進まないし、とりあえず『プランB(仮)』でいこっか。では本題に入るけど。まずこの計画は何のためにあるのか、そこが正しく共有できているか再確認しておこうかな。
はい水沢高尾くん」
教師が生徒を指すように、僕を指さした。
「え、僕ですか?」
「『プランB(仮)』が成就するための条件を述べなさい」
「……えっと、だから。千沙がですね、僕を、えーと」
いや、なに言わせるんだこの人。
「里穂から、えー、寝取り返す──そしたらミッションクリア的な」
とりあえず赤面しながら答えた。
ところが陽菜さんは、厳格な教師風に言う。
「違います。勉強不足ですね、水沢高尾くん」
どうでもいいけど、なんでフルネームで呼ばれつづけているんだろう。
陽菜さんは小夜を見やった。
「では小夜さん」
「はい、先生。『プランB』のクリア条件とは、水沢さんを滝崎さんから寝取り返すことです。もちろん、千沙が」
今のは聞き間違いか?
「まった、まった。真紀さんがどこから出てきたの? 里穂が、えー、寝取った──」
という設定。
「──なわけで。真紀さんは無関係。肉体的接触は無ですよ。0に0を掛け算したようなもので」
そもそも里穂とも何ら肉体的接触はなかったけれども。
しかし陽菜さんは謎めいた笑みを浮かべて言うわけだ。
「この場合の寝取り返すとは、『肉体的』ではなく『精神的』な意味」
意味がわからん。
解説してもらおうと千沙を見やった。
すると千沙は虚空に視線を固定し、意識をどこかに飛ばしていた。
見事な現実逃避モードだなぁ。
そのスキルを学びたい。
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