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状況を分析しようとしたけど、無理なことに気づいた。
陽菜さんがどう考えるかなんて、どうして想像できる?
ただ、陽菜さんをよく知るであろう小夜にとっては、僕の作戦は失敗確定らしいけど。
うーむ、ろくでもない。
陽菜さんは里穂と僕を交互に見た。
最後に、里穂の上に視線が留まる。
「ではそういうことなのかな、里穂ちゃん?」
里穂がビクッとした。
陽菜さんの言う『そういうこと』が、どういうことなのか。
その謎を解くため、大いに思考を回転させていることだろう。
「えーと陽菜姉。そういうことだったら、どうなっちゃうのかしら?」
当たり障りのない応答だ。
ところが陽菜さんの中では、これが肯定文に聞こえたらしい。
「やっぱり、これは略奪愛ということなんだね!」
両手をあわせて、謎が解けた喜びを感じている陽菜さん。
里穂は目を回しそうだった。
そして、独り言が聞こえてくる。
「略奪……愛。日常会話で聞く日が来るなんて、こんなワイドショー的な単語が、しかも、あたしに向かって」
「気にしなくていいんだよ~、里穂ちゃん。私は怒ったりしてないから」
意外なことに、陽菜さんの表情は柔らかだ。
怒りを隠しているわけでもなさそう。
ということは、里穂は本当に許された?
里穂も同じ結論らしく、明らかにホッとした様子。崖の底からの生還だね。
「悪いのは全て、ただ一人だもの」
と、続ける陽菜さん。
とすると、僕が悪者ということになるのか。
千沙を弄んだということで? 今度は僕が崖下に落ちる番?
釈然としないけど、陽菜さんにはそう見えるのも仕方ない。
ここは潔く謝罪しよう。
と思ったけど、陽菜さんの視線はまっすぐ千沙へと向けられた。
千沙がギクッとする。
「え、お姉ちゃん。この流れで、私? 私は被害者だよね? 好きな男の子を寝取られたわけだし」
里穂が瞬間、また目を回しかけた。
「寝取ったことになっているの、あたし?」
回復していた里穂に、またも大ダメージ。
そして千沙の戦略とは──被害者に徹する。
無難な作戦だと思ったけど、陽菜さんの発想はその上を行った。
「寝取られるほうが悪いとは思わないの、千沙?」
千沙は、『これが実の姉が妹に言うことだろうか』、という顔。
「ならお姉ちゃんは、私にどうしろというわけ?」
「あなたの不純異性交遊は、私の目が黒いうちは許しません。夜のデートをした水沢高尾くんが、千沙の『将来を共にするパートナー』ならば問題ないけど。もしも違うのならば、問題大ありです」
「あの、だから今は寝取られて──寝取られたものは、寝取られたんだから」
「でしたら、寝取り返しなさい」
と言って、陽菜さんが天井を指さした。つまり上階を。
上階には何があるのでしょう。たとえば寝室でしょうか。
千沙が唖然とする。
「……え、まって今!? ここで!?」
本庄千沙が泡を食っているのを見るのは、新鮮味があるなぁ。
傍観者の安全圏に戻りつつある里穂。
そんな里穂が、興味深げに呟いた。
「地雷だらけだったのね、この家は」
踏みすぎた。




