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「小夜さんと本庄姉がグルだったなんてね」
「グルという言い方は、聞き捨てなりません。わたくしは尊敬する本庄お姉さまのため、ひと肌脱いだまでです」
そう説明する小夜は、助手席に座っていた。
車はすでに動き出しており、後部座席にいる僕、真紀さん、里穂に脱出のチャンスはない。
ところで肝心の本庄はどこにいるんだろう。
つまり、妹のほう。
「里穂。本庄は?」
里穂はそわそわしながら言う。
「どうしてあたしに聞くのよ」
「幼馴染じゃないか」
「レイトショーデートした高尾こそ、知っているべきでしょ」
「いまそれを持ち出すのか」
「すべての発端はそこにあるのよね。あたしは巻き添え被害」
「念のため確認だけど、僕の味方だよね、里穂は」
「もちろんよ」
そこには何やら葛藤があった。
僕の味方をすると約束した以上は裏切れない。が、巻き添え被害で、本庄姉を敵に回したくもないと。
一方、真紀さんは納得のいっていない様子。
「わたし、無関係だよね」
まあ確かに。
そこで気を利かせたつもりで、僕は尋ねた。
「じゃあ降ろしてもらう?」
ところが、これで余計に真紀さんは不機嫌になった様子(なぜ?)
「いい」
とだけ答えると、窓へと視線を向けた。
「ところで小夜さん。僕たちはどこに向かっているんだろうか?」
「到着しました」
そこはただの民家だった。豪邸だが、民家だ。
てっきり雰囲気のある洋館とか廃ビルにでも連れてこられるのかと思ったが。
「あ、千沙の自宅ね。ほら、すぐそこがあたしン家よ、高尾。こんど遊びに来なさいよ」
里穂の場合、送ってもらったことになったな。
車が路駐し、僕たちは降りた。
ただし助手席の小夜は降りずに、窓だけ下ろして、
「わたくしの役目は終わりました。最後に、お三方が本庄家に入るのを見届けたく思います」
「ここまで来て、逃げたりはしないよ」
本庄家に行き、インターフォンを鳴らす。
すると応答のかわりに、玄関ドアが開いた。
美人さんが現れた。
彼女が陽菜さんだろう。
当然、姉妹なので本庄と雰囲気が似ている。
ただ陽菜さんのほうが髪は短く、そして胸が大きい。……無意識的にそんなところを見てしまった。
巻き添え被害の里穂が嬉しそうに言う。
「あ、陽菜姉!」
「久しぶりだね、里穂ちゃん」
里穂の頭をなでなでする陽菜さん。
僕は隣にいる真紀さんに囁いた。
「優しそうな人で良かった」
陽菜さんが僕に気づき、近づいてくる。
「あなたが水沢高尾くん、だね? はじめまして、本庄陽菜です。妹の千沙がお世話になってるね」
「いえ、僕のほうこそ千沙さんには、いろいろと助けていただいています」
すると陽菜さんはほほ笑んで、
「そんなに他人行儀じゃなくていいんだよ。だって、あなたはわたしの義理の弟になるんだからね」
「そうですか……え、そうなんですか!?」
テキトーに相槌を打ってから、数秒遅れて唖然とした。
一体なんの話だ?
「千沙と夜のデートをしたということは、そういうことだよね水沢高尾くん?」
「……」
里穂が僕の傍にきて、スパイのように小声で言った。
「言うの忘れていたけど。陽菜姉はどちらかというと、小夜と同じ世界に属している人なのよね。まぁ、あたしは被害にあったことないから、ただの優しいお姉さんなんだけど」
そこは早めに言って欲しかった。
あと、真紀さんがなんか呆然としている。
 




