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しかし英樹は休みだった。
「死んだのね」
と里穂が察したという顔で言う。
「いや、勝手に変なことを察するなよ」
「ヤンデレと一緒になるから、こーなるわけ。残念だったわね高尾、友達が一人減って……あたしがいるからまだ0人ではないわよ」
「励ますように言わないでくれるかな」
英樹不在の謎は解けず──電話してもつながらなかったので──さすがに本当に死んだとは思えないが。
モヤモヤしながら教室に戻った。すると。
「何か心配事、高尾くん?」
「え、真紀さん?」
隣席の真紀さんは頬杖ついて、僕を眺めていた。
例の件以来、真紀さんから話しかけてくれたのは初めてだ。
これは良い変化といえるのでは?
「実は──」
かくかくしかじか、という感じで、本庄姉の件を話した。
「ふーん」
反応が薄い。
「本庄姉が来るんだよ、真紀さん。もう少しリアクションがあってもいいんじゃないかな?」
「そうなの? 何も魔王が襲来するわけでもあるまいし」
いや確かに魔王は来ないけど、比較が極端だな。
「……もしかして、本庄姉のこと知らないの?」
「お会いしたことはないわね。千沙にお姉さんがいるのは知っていたけど」
「本庄が恐れる相手なんだから、とんでもない人に違いない」
「それは飛躍しすぎだと思うよ高尾くん。誰しも苦手な人っているわけだし。千沙にとって、それがお姉さんというだけのことでは? さすがの千沙も、『姉』だけには頭が上がらないのかも」
なるほど。
そういう考えでいけば、僕が過剰に本庄姉を恐れる必要もないわけだ。
だいたい本庄とレイトショーに行ったくらいで、命を取られるわけでもないし。
「何だか、いきなり安心した」
「それは良かったね」
「いやだけど待てよ。里穂も、本庄姉を恐れていたんだよ。里穂いわく、本庄姉は『たおやか怖い』らしい」
「……『たおやか』と『怖い』で打ち消しあってるから、結論として普通の人なんじゃない?」
おお、言われてみると。
真紀さんと話していたら、不安も吹き飛んだ。
「さすが最上位美少女」
「高尾くん、この流れの『さすが最上位美少女』は、弄られている気しかしない」
「え、心の底から言っているのに」
かくして──。
これ、結果オーライと言えるのでは?
本庄姉の件のおかげで、真紀さんとも仲直りできたみたいだし(ちなみに英樹の安否のことは頭から消えていた)。
本庄陽菜さまさまだ。
★★★★
放課後。
久しぶりに真紀さんと帰っていると、校門近くで路駐している高級車が目に入った。
何となく嫌な予感がしていると、後部ドアが開いた。
小夜が登場。
「お待ちしておりました、水沢さん、滝崎さん」
「あ、そうだった。英樹をどうした英樹を」
「英樹のことは本日はどうでもいいのです。わたくしはいま、本庄さまの使者としているのですから」
「え、本庄って姉のほう?」
「妹に用はありませんよ」
車内を覗き込むと、里穂ががっくりきた様子で座っていた。
3分前くらいに下校していくのを、教室の窓から見たのだが。
「……里穂も捕獲されたのか」
「……ん」




