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「姉さんが来るの? どこから?」
「異世界から──って、そんなわけがないよね水沢くん」
「いや、誰も異世界からお姉さん来ますか、とは聞いてないけど」
本庄の動揺具合はなかなか興味深い。
いや、興味深いで済ませていいのだろうか。
いや良くない。
本庄千沙を動揺させる事態が起きたのならば、それは災厄といっていい。
他人に災いをもたらすのを得意としている本庄が。
パニックになる事態なのだから。
ゆえに回避行動を取るべき。
と、僕は朝から色々と考えた。
朝食抜きにしては、思考もまずまず。
しかし、本庄は朝から思考の回転が速かった。
僕より数倍も。
「回避などは出来ないんだなぁ、水沢くん。キミも、この災厄にどっぷり浸かっているのだから」
「うーむ」
なぜにこちらの考えていることが分かったのかなぁ。
「キミの考えていることは、だいたい分かる」
「そんなバカな」
「だいたいの人間の思考は推測しやすいものだからね。真紀とかは例外だけど──って、脱線している場合じゃないよ水沢くん」
好き好んで脱線したのは、そっちでは。
ふと里穂が登校してきたのに気づいた。
里穂は僕と本庄を交互に見、何やら熟慮黙考。
というより葛藤か。
あれは、自らもトラブルに飛び込むべきか考えているとみた。
僕は心の中で手招きした。
(君もこっちに来るんだ、里穂)
「おはよ、千沙、高尾」
「おはよう」
「おはよう」
そして里穂は上履きにはきかえて、歩いていった。
「薄情者」
「里穂は無関係だから、巻き込みようがないよ」
「里穂が無関係で、僕が関係ある事態ってなんだ?」
里穂は本庄の幼馴染だ。本庄のお姉さんとも面識があるのでは?
一方、僕は面識などない。
そもそも本庄に姉がいることだって知らなか──
いや、知ってた。
昨日、ヤンデレこと小夜から聞いたので。
まてよ。もしかして。
「そうだよ水沢くん。私とレイトショーに行ったのは、里穂ではなくキミだからね」
(やっぱりか)
「ご名答。そこまでは自力で気づけたわけだね」
「人の考えを読むのをやめろ」
本庄は束の間、僕への興味をなくし、独り言をつぶやく。
「まさか写真を撮られていたなんて。お節介な人間がいたものだよ。白鉦ネットワークの脅威判定に誤りがあった」
「高校生なのにレイトショーへ行ったことで、お姉さんに叱られるとか」
白鉦学園は厳しそうだし、本庄姉はそこのOG(しかも生徒会長だった)だし。
しかし本庄は憐れむように僕を見た。
「たとえばレイトショーに里穂と行ったのなら、何も問題はなかったのだけど。キミは、男だからなぁ」
「それは、僕が誰よりも知っている」
「姉は、不純異性交遊に厳しいわけだよ水沢くん」
僕はしばし考えてから、次の質問を慎重に発した。
「ところで君の姉さん、どこから来るんだ?」
「留学先から」
思ったより、事態は大事らしい。
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