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翌日。
登校したところで、まずは真紀さんに事情を説明しよう。
といっても、たいして話せる事情もないが。
しかし真紀さんは冷ややかだった。
「高尾くん。わたし達は恋人とかじゃないし、わざわざ弁解しなくてもいいんだよ」
「だけど──しかし──」
とはいえ恋人ではないのは事実なので、これ以上、言えることもなかった。
気づくと、廊下から里穂が手招きしている。
手招きという単純な動作も、里穂の場合は感情がよく表れるらしい。
怒っていることが丸わかり。
廊下に出ると、里穂が言う。
「昨日、千沙とデートしたって本当なの?」
「その情報、どこから漏れたのさ?」
しまった、自白してしまった。
「千沙が言っていたわよ」
本庄め。
「デートしたわけじゃない。映画に行っただけで──」
なんかデジャヴを感じる。
「それをデートというのよ」
やっぱりデジャヴを感じる。
「結果的にデートになったかもしれないけど、これには深い理由があるんだよ」
「深い理由?」
里穂は腕組みして、一考。
そして何か閃きがあったらしく、瞳が輝く。
「もしかして、昨日の相談が答え?」
里穂には仮定の話として、本庄の弱みを握ったが、こっちも握られたという話をしている。
「そうだよ」
「すると、こういうこと? 千沙に弱みを握られたので、無理やり映画に行ったと?」
「そう、そう。強制だったんだよ」
「どうかしらね。抵抗しようと思えばできたと思うけど」
と、まだ疑っている里穂。
「それで、どんな内容なの?」
「何が?」
「千沙に握られた弱みって?」
「それは──言えない」
里穂はあからさまにショックを受けた様子。
「そんな──あたしに隠し事をするの、高尾! あたしたちの友情はどこにいったのよ?」
「それはそれ、これはこれ」
里穂は不満そうだったが、本庄とのキス事件を話すのが得策とは思えない。
「納得してもらわないと」
「納得できるはずがないわよ──けど、とりあえず棚上げにしておいてあげる。それと高尾。なにも問題は、千沙だけじゃないのよ」
本庄千沙の他に、どんな問題があるっていうんだか。
「本庄の問題に比べたら、どれも些末なものだよ」
「この名前を聞いたら、そんな呑気なこと言っていられなくなるわよ」
「どんな名前も、本庄千沙のインパクトには勝てないと思うけどね」
「井出小夜」
驚いた。
本庄に対抗できる人材がいたのだなぁ。
どうして僕の狭い交流関係で、この2人と知り合ってしまったのか。
「井出小夜がどうしたの?」
里穂が深刻な様子で言う。
「昨夜、あたしに連絡してきたのよ」
里穂に電話してきたのに、なぜ僕の問題にもなってくるんだ?
巻き込む気満々じゃないか。




