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「……その…………」
言い訳が思いつかない。
それにしても、僕は何をしているんだ。
本庄から盗んだスマホをポケットに収めていた。
それを忘れて、うっかり自分のスマホと思いこみ、出てしまうなんて。
登録表示が『滝崎真紀』ではなく『真紀』だった点で気づかないかなぁ。
いや、今は後悔している場合ではない。
とにかく弁解するんだっ!
本庄が戻ってきて、僕の手からスマホを取り戻した。
「もしもし? やあ真紀、どうかした? 水沢くん? そうそう、いま私たちは一緒にいるんだよねぇ。え、どこにいるかって? 密着する場所」
『密着する場所』って、なんだ。
確かに劇場内の密集率は高いかもしれないが(今夜はガラガラだったけども)。
僕は再度、スマホを奪い取った。
「真紀さん。別に、変な場所にいるんじゃないよ。映画館にいるだけだから」
『こんな夜遅くに? もしかしてレイトショー観たの? 高尾くん、いつから道を踏み外しちゃったのかな……』
本庄に弱みを握られたあたりから。
正しくは道を踏み外したというよりも、人生の歯車が狂った。
「だって真紀さん、それはほら──ほら」
『ほら?』
「……なんでもありません」
弱みの件を話せない以上、これといって言うこともなかった。
本庄が手招き仕草をする。
ああ、スマホを返せと。
僕は降参の意味もこめて、スマホを渡した。
「真紀。水沢くんとレイトショー観ていただけだよ。真紀は恋人じゃないんだから、別に構わないよねぇ? うん、なんの映画かって? 真紀たちが見損なった恋愛映画。明日、感想話してあげるからね。じゃあね、ばいばい」
通話を切ってから、本庄は面白がるように言った。
「真紀は何か用事があったはずなのに、それを話すのを忘れていたね。よほど動揺させちゃったのかなぁ。ね、水沢くん? しかし、たかが映画デートだよ」
スマホの時間表示を見てから、
「または、深夜のデートかな」
僕がよほどな顔色だったようで、本庄が同情するように言う。
「ご愁傷様だね、水沢くん」
「……」
「けどこれも自業自得だとは思わないかな? スマホを盗んだりした水沢くんが悪いよね?」
僕はハッとした。
「真紀さんから電話があることを知っていたんじゃ?」
本庄は呆れた様子で応える。
「それで、わざとキミに盗ませたって? そこまでコントロールできたら、頭脳戦の漫画で主役張れるからね」
本庄の場合、主人公ということはないんじゃないかな。
どちらかといえば悪役枠。
「何か言いたそうだね?」
「別に」
その後、僕らは補導されることもなく、無事に帰宅した。
しかし今夜のことは、後々まで引きずることになるのだった。
まぁ、そうならなかったら逆に驚きだし。




