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どうあがいても勝てない敵というものは、いるものだ。
本庄千沙がそれ。
RPGでいえば、レベルが違いすぎる。向こう84はあるな、うん。
売店で飲み物を購入してから、劇場へ向かう。
「念のためチケットは私が渡そうか」
本庄が代表して、2枚のチケットをスタッフに渡した。
スタッフは男だったこともあって、本庄へと視線は釘付け。
本庄単体なら女子大生で充分通る。この隙に、僕はこそこそ先へ進んだ。
劇場前で僕は半券を受け取った。
「休日の昼間にでも来れば、こんな危ない橋を渡らず済むのに」
「ちょっとしたスリルがまた、楽しいんだよねぇ。水沢くんもすぐに分かると思うよ」
「分かりたくはない」
「あとさっきの『濃厚な接吻』については、帰って日記に書いておくからね。ほら。私にとっては、あんなに激しいのは初体験だったわけだし」
グイっと接近してきて、
「水沢くーん。責任取ってもらわなきゃだよねぇ?」
なんか捕らわれた。
いつになったら僕は学ぶかなぁ。
英樹の助言に従って状況が好転したことはない、って。
座席につき、一息つく。
映画が始まってしまえば、上映終了までは安全だ。
ふいに本庄が、僕の太ももを撫でてきた。
「うわっ、何をするんだ!」
本庄は面白がるように言った。
「上映中、こーいうセクハラをしたらダメだよ、水沢くん──という教え」
「頼まれてもしないから」
本庄は悲しむフリをした
「頼まれてもしないの? それはショックかなぁ。私さ、ショックを受けると変な癖があるんだよねぇ。友達に変な画像を送信してしまったり」
「変な画像? まさか、その、君とのキス画像じゃないだろうね?」
ようは、弱み画像を真紀さんに送るぞ、という脅しか。
「つまり、僕にセクハラをしろと」
本庄はクスっと笑った。
「まさか。セクハラをして欲しいんじゃなくてね。私としては、ちょっとは過激なスキンシップがあってもいいと思うわけ。つまりさ、水沢くんに判断は任せるけど期待に応えてくれなきゃ困るなぁ、って話」
「期待に応えられなかったら?」
「真紀に変な画像をつい送信──という事故が起きて、これはこれで楽しいかな。私はね」
とんでもない課題を出されたようだ。
セクハラはNGだけど、過激なスキンシップをして本庄を楽しませろと。
しかもそれに失敗すると、真紀さんにキス画像が送られるらしい。
まて、何をしたら正解なんだ?
軽くパニくっているうちに、予告が始まっていた。
いまは3Dアニメ映画の予告中。
「この世の中は2種類に分かれるんだよ、水沢くん。ピクサーを好きな人と、嫌いな人で」
本庄が格言風に下らないことを言っている。
僕は聞き流して、考えた。
セクハラではなく、過激なスキンシップ。
あれか、手を握るとかか?
上映中に本庄千沙の手を握ることが、正解なのか?




