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レイトショー出陣には、まず第一の難所があった。
両親の目を盗んで、どうやって家を出ようか?
とくに策略も思いつかなかったので、正直に言ってみた。
「同じクラスの女の子とレイトショーに行きたいんだけど」
「いいわよ、ガールフレンドとイチャ付いてきなさい」と母。
「いいぞ、ガールフレンドとイチャ付いてこい」と父。
考えものだな、この両親。
本庄とはショッピングモールで落ちあった。
本庄の私服ファッションは、大人っぽい。なるほど女子大生に見える。
「やぁ水沢くん。さっきそこでナンパされちゃってね」
「へえ」
「心配することはないよ。愛しのカレシを待っているのよ、と追い払ったからね」
「へえ」
「『愛しのカレシ』とはキミのことだよ、水沢くん」
「そりゃあどうも」
ひとまず【無反応】作戦を実行。
ここから英樹の【チキンレース】作戦に移行するかは、微妙なところだ。
シネコンまで移動し、自動券売機でチケットを購入。ちゃんと大人料金で。
「売店で飲み物でも買おっか?」
「できる限り、スタッフの視界には入りたくないんだけどね」
「水沢くん。ビクビクしてたらバレちゃうよ。自信満々にふるまっていたら、そうそう年齢確認は求められないって」
「自信満々だけど」
「そうは見えないなぁ、水沢くん」
「そもそも自信満々って、どういう様子のことを言うのかな」
「年齢確認されても問題ないぜ~、という様子かな」
「具体的には?」
本庄はしばし一考。
それから、無邪気な笑みを浮かべた。
第三者が見たら、一目惚れしても仕方ない美人の笑みだ。
しかし、僕からしてみると悪女の笑み。嫌な予感しかしない。
「ではでは、大人っぽいことをしてみようか。公衆の面前でのキスをさ」
「キ……スを、ここで?」
周囲には人が多数いる。その中でキスしようというのか。
「それはもう風紀紊乱罪では?」
本庄は僕を見据えて、考え込んだ。
「冗談なのか本気なのか……」
まてよ。これはチャンスなのか?
【チキンレース】作戦を実行する好機だというのか?
脳内でシミュレーションしてみた。
2人のくちが触れ合った瞬間、まず僕は前に出る。
これにより、接触が強くなる。
ここで、すかさず舌をあれするわけだ。
たぶん本庄はビビるはず。
ただのキスならともかく、今度はヤバいキスだ。
さすがの本庄だって、『遊びでこれは行き過ぎ』と思うはず。
そして、ビビった本庄千沙は逃げ帰る。
なんかいけそうな気がしてきた。
「じゃキスしよう」
「あ、やる気になった?」
いざ──
まずはキス。
ここで作戦実行──
ところが向こうも同じことをしてきた。
なんか絡まったんだけど……
顔を離すと、本庄は悪戯っぽく微笑んでいる。
「積極的だねぇ、水沢くん。もしかして、私に本気で惚れちゃったのかな?」
「……」
このチキンレースに勝てる気がしない。
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