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私服に着替えるため、一時帰宅を許された。
にしても、レイトショーなんか行って補導されたら、どうするんだ。
これは助言が必要だ。
最近、英樹は役に立たないことが判明したので、里穂に電話。
部活は終わったようで、里穂はすぐに出た。
「里穂。本庄の弱みを握れ、という話だったよね?」
『え? そうね。朝、そんな話をしたわね。まさか弱みを握れたの?』
本庄の弱みの件は、話せない。
よって、ここからは仮定の話として進めよう。
「いや、弱みは握っちゃいないんだけど。仮定の話として」
『仮定の話?』
「そう仮定の話として──僕が本庄の弱みを握れたとしよう、偶然にも。ところが本庄もまた、僕の弱みを握ってしまった。この場合、どうすればいいんだろうね?」
里穂の口調は不思議そうだった。
『それ、何も困ることはないでしょ? 弱みと弱みで対等じゃない。不可侵条約でも結べば?』
「弱みの重みが、なんか違うんだよ。秤でいえば、本庄のほうに偏っている」
『つまり、千沙のほうが≪弱みレベル≫が強いのね?』
≪弱みレベル≫とか、初めて聞く単語だな。
「そう、そう。その場合、僕に打つ手はないんだろうか?」
急に里穂の口調が疑わしそうになった。
『仮定の話にしては、妙に具体的よね』
「そ、そうかな。けど仮定の話だよ。とにかく、打開策はあるのかな?」
『そうねぇ……劇的な打開策は思いつかないけど。しいていえば、千沙の握っている弱みを抹消する、とか?』
弱みの抹消か。
つまり、僕と本庄のキスしている画像を消去しろと。
難易度、高いなぁ。
本庄のスマホを、気づかれずに操作しなければいけないわけだし。
バックアップ取られていたらお終いだし。
「ありがと。参考にする」
『参考にするって、やっぱり今のは仮定の話じゃなくて──』
勘付かれたので通話を切った。
仕方ない。ダメ元で英樹にも聞いてみるか。
英樹に電話。
「英樹、動物園では見捨ててごめんね。許してくれる? OK。じゃ、さっそく相談だけど」
『おい、オレは一言も喋ってねぇぞ』
今回も仮定の話で進めたが──
『あのな高尾。仮定の話はいいがよ、オメーが【本庄に握られた弱み】ってのが分かんねぇと、助言なんかできねぇぜ』
妥当な指摘なので、本庄とのキス画像の話をした。
仮定として。
『んだとぉぉ高尾! 滝崎真紀に続いて、本庄千沙ともキスしやがったのかよぉぉ! てめぇだけ何でそんないい思いしてやがんだ!』
「とりあえず言っておくけど、真紀さんとはキスしてないから」
『まぁいい。ダチとして、オレが打開策を教えてやる。いいか高尾、これはチキンレースだぜ』
「チキンレースって、2人で衝突寸前まで車を走らせ、先に避けたほうが負けというあのゲーム?」
『本庄千沙は、お前にキスしてきたわけだろ。ならお前は、もっと過激なことしてやり返すしかねぇ。それで向こうが降参したら、お前の勝ちだ高尾。
しかし、さらに過激なことでやり返されるかもしれねぇけどな。だからチキンレースってなわけだ。先に恐れをなしたほうの負けだぜ』
「……よく分からないな英樹。もっと具体的に言うと?」
『本庄はキスのとき、舌入れてきたのか』
「入れてきてない」
『いいか高尾。いまはお前のターンなんだから、まずはお前から本庄にキスしろ。ただし、本庄からのキスより過激でなきゃなんね。
だから、お前は舌を入れてやるんだよ。俗にいうディープキスだぜ!』
なんだその正面衝突。




