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ファミレスにて。
本庄千沙はパフェを食べていた。
僕はアイスコーヒーを飲みながら、『敵』の動きを見ている。
本庄は生クリームのついた苺をかじってから、
「割り勘でいいよ、水沢くん。そんなに奢りたいというのなら別だけど。ほら、私は善意の塊のようなものだから、キミが奢るのを渋るのなら、割り勘でいいんだよ~」
そもそも割り勘という発想からして、おかしい。
こっちは安いドリンクバー。向こうは意味なく高いパフェ。
しかし、本庄には弱みを握られている立場だ。
いや僕だって弱みを握っているはず──なのだが。
どうも弱みの『重さ』が違う気がしてならない。
結局のところ、本庄が腐女子とバレたからって状況が変わるのか?
長本三咲あたりが反旗を翻すとか?
考えられないなぁ。
逆に本庄のご機嫌うかがいに、自分もBLを読み出しそうだ。
それだけ本庄の地位は確固たるもの。
対して僕が握られた弱み──本庄とのキス画像。
これはまずい。
真紀さんに見られたら、言い訳のしようがない。
ついでに里穂も見たら、なんか怒りだしそうな気がする。
状況を打開するまでは、本庄の機嫌を取るしかないのか。
「……奢ろうか?」
「そう? 男の子に奢ってもらえるなんて、カップルみたいだなぁ」
奢らせる誘導したくせに、よく言うよ。
僕はパフェを指さして、
「それを君が食べ終えたら、もう帰らせてもらう」
「何か用事でもあるの?」
「まあね」
平和な我が家でソシャゲし、ストレスを発散するという用事が。
ちなみにストレスは現在進行中で溜まっているわけだけど。
「用事があるんだ。ふうん。じゃ決めた。これから放課後デートのPART2に入ろっか。ちなみにPART1は、今。PART2は何したい?」
おかしい。
本庄との会話が成り立たない。
というより、本庄は会話を成り立たせる気がゼロのようだ。
「PART2は──それぞれの家に帰宅する、とか」
「先々週の土曜日、真紀と映画に行ったんだって?」
こいつ、人の話を聞く気もゼロか。
「行ったけど」
「ホラー映画を観たんだってねぇ。カップルなら恋愛ものを観ないと」
実際は、恋愛ものを観ようとしたら席がなかったわけだが。
いちいち説明する気はない。
「まだ上映しているのかな、その恋愛映画は?」
「さぁ」
「調べてみようか?」
「……」
本庄には弱みを握られていなくとも、時たま逆らいがたいときがある。
僕はスマホを取り出して、映画館のサイトを開いた。
「まだ上映しているみたいだね」
「いま確認しているサイトは、2駅先のモール内にあるシネコンかな?」
「そうだけど……」
嫌な予感。
「恋愛もの、レイトショーはやってるのかな?」
嘘をついても、どうせバレるか。
「……やってる」
本庄はくちびるに付いた生クリームを、人差し指で取った。それを舌先でぺろりと舐めとる。
「水沢くん。今日は夜更かしだ」
まさかレイトショーに行くという意味か?
「あのさ、18歳未満はレイトショー観れないよ」
「私服でいけば、案外バレないものだよ」
「……」




