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落ち着け、いまは脱出することが重要。
「本庄。僕は男であり、君は女子だ」
「ん、知ってる」
「つまり、君の腕力では僕を捕え続けることは不可能。力づくで逃げさせてもらう」
本庄の腕を外して逃げようとしたが、ビクともしなかった。
「水沢くん。本気出してもいいんだよ?」
「……いや、あまり本気だしすぎて怪我させたら、困るし」
帰ったら筋トレしよ。
僕は本庄に捕縛されたまま、学校の敷地内を出た。
これ、はたから見ると本庄とイチャついているように見えるんじゃ?
何たって本庄は、僕を捕まえておくため密着しているわけだし。
「……本庄。変な噂が立っても知らないよ」
「どんな噂?」
ここは本庄を脅し、脱出の隙を作るとしよう。
「僕と付き合っているという噂」
ところが本庄は気軽に答えた。
「そうしよっか」
「……は?」
「どうしようかと困っていたんだよねぇ、実は。私は水沢くんに弱みを握られたわけだけど、どうすれば状況を逆転できるのかなと。
やっぱりさ、私も水沢くんの弱みを握るしかないわけ。そのためには、キミに張り付いている必要がある。なら、カップルになってしまうのが手っ取り早い。これ、どー思う?」
こんなやり取りが続いている間も、僕たちは校舎から離れていった。
表通りからも外れたため、周囲にはひと気がなくなった。
「どう思うも何も──バカバカしい」
「または、さ。キミが大人しく自分の弱みを提供してくれれば、問題解決なんだけど?」
ここはどうにかして主導権を握らなければ。
「……あのさ。僕は君の弱みを握っているわけだよ。それなのに、ちょっと強気に出すぎじゃないのかな?」
「つまり、弱みは提供してくれないわけだね?」
そう言う本庄の口調には、何か邪悪な響きがあった。
嫌な予感がする。
逆らうべきではないような──
しかし、屈するのもごめんだ。
「提供は、しない」
本庄はいまだ、僕の首に右腕を巻き付けている。
そのまま左手で、スマホを取り出した。
「じゃ、私と自撮りしてくれたら開放してあげる」
「自撮り? まぁそれでいいなら」
「はい、こっち向いて~」
「え?」
本庄のほうを向いたとたん、口をふさがれた。
彼女のくちで。
くちびるがあわさり、なにやら甘酸っぱい味が──
パシャリ。
自撮りされる。
彼女のくちが離れ、笑みを形作る。
「いい画像が撮れたねぇ、水沢くん」
「な、な、な、な」
「もしかして、ファーストキスだった? 信じられないかもしれないけど、私もだよ。ほんと、ほんと」
「な、な、な、な」
衝撃すぎて言語能力が麻痺した。
本庄がスマホの画面を見せてくる。
そこでは僕と本庄がキスしていた。
「この画像、真紀に送ってもいい?」
言語能力、戻ってこい。
「そ、そんなことしたら、僕と付き合っていることに、なるんじゃないか?」
「私はさ、別に構わないんだよねぇ。水沢くんとカップル認定されても。けどキミは構うんじゃないかな? だってほら、キミは真紀のことが好きになったんだよね? あー隠してもバレバレだよ。さ、どーする?」
これ、完全に本庄のペースじゃないか。
主導権を握られてるじゃないか。
「……真紀さんには送らないでもらいたい」
「なら、これでお互いに『弱み』を握り合ったわけだね。私たち、仲良くできそうだ。ね、水沢くん?」
「……そうだね」
「友情の始まりだねぇ」
破滅ルートに入りました。




