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そもそも、これは弱みなのか?
「人の趣味は好き好きだし」
「その考えは甘いなぁ、水沢くん。頂点の地位に立つ者には、求められるイメージというものがあるんだよねぇ。つまり、私のような者が腐女子だと、何かと不都合なわけだ。よってキミは、この私の弱みを握ったことになる」
わざわざ弱みであることを説明する本庄。
「そういうものかな。なら、さっそく弱みを使わせてもらうけど。ここで不可侵条約を結ぼう」
「不可侵条約?」
「君が僕たちに構わなければ、僕は君が腐女子であることをバラさない」
「『僕たち』?」
「僕だけでなく、里穂や真紀さんのことだ」
「里穂は幼馴染だし、真紀は親友なんだけど?」
里穂はともかく、真紀さんと本庄が親友同士とは思えないけどなぁ。
「少なくとも、2人を余計なことに巻き込むな」
「じゃ条約成立。学校活動内での不可侵を結ぼう」
本庄が片手を差し出してきたので、僕はその手を握った。
なるほど。
これが弱みを握ることによる優位性か。
なかなか上手くやれたようだ。これなら里穂も満足だろう。
とはいえ、里穂には弱みのことは話せないが。
しかし、いまどきBL好きが弱みになるとは思えないがなぁ。すっかり市民権を得たと思っていた。
まぁ本庄が読んでいたのは、18禁の上かなりエグそうだったけど。
それに、これこそスクールカーストかもしれない。
本庄が言うように、その地位に見合ったイメージというのがあるのかも。
ならクラスを支配している本庄が腐女子というのは、イメージダウンとなるのか。
僕たちは視聴覚室を出て、教室に戻った。
席に座るなり、お隣の真紀さんが言う。
「いま、千沙と教室に入ってきた? さっきまで一緒にいたの?」
「少し視聴覚室で話していたんだよ。実りのある話し合いだった」
「ふーん。どんな話し合い?」
真紀さんが本庄の趣味を知っても、悪用するとは思えない。
とくに偏見もないだろうし。
だからといって、本庄との条約は破れない。
「別に」
「別に?」
真紀さん、納得せず。
もう少し具体性が必要か。
「その──将来に対する話」
「ふーん。将来に対する話」
担任が来たので、それ以上の追及は逃れた。
その後、真紀さんはこの話題を持ち出さなかった。
これで一安心だ。全てがまるっと解決した。
まぁ正直なところ、真紀さんは疑念を残しているだろうけど。
大人の対応で、押し込んでくれた感じか。
ただ僕は楽観している。
今後、僕が本庄と関わらなければ、その疑念が表面に戻ることもないだろう。
放課後。
真紀さんと里穂は部活へ。
帰宅部の僕は、昇降口に向かう。
不意にいい匂いのする人に、後ろから密着された。
背中にあたっている感触は、胸だ。
何事だ!
逃げようとしたところ、首に腕を巻き付けられた。
おかげでより密着度が増した。
あと微妙に、喉を絞められている。
耳元で囁かれ、この相手が誰だかわかった。
本庄だ。
「どこに行くのかなぁ、水沢くん。私に付き合ってもらうよ」
「本庄──不可侵条約を忘れたの?」
「あれが効力を発動するのは、学校活動内だけなんだよねぇ。いまは放課後だから範囲外。条約を結ぶときは、ちゃんとチェックしないと」
何というか、余計な条約を結んでしまったなぁと思う。
というか弱みを握るのって、悪手だったんじゃ……
里穂、どうしてくれる。




