35
月曜日。
通学途中、遠くから英樹の後ろ姿を見かけた。
生存を確認。
まだ小夜は英樹を手にかけていなかったか……
まあ、時間の問題だろうけど。
死亡フラグの立った英樹には、声をかけないでおこう。
校舎に入り、教室に向かう。
入口のところで、長本と遭遇。
週明けから、ろくでもない奴と会った。
ツイてないな。
長本が嫌悪の眼差しを向けてくる。
「邪魔」
僕も嫌悪の眼差しで返しつつ、動かなかった。
数秒の膠着状態。
譲る気はなかったが、周りからジロジロ見られ始めたので、仕方なく一歩横にどいた。
長本に負けたというより、周囲の同級生の謎の圧に負けた。
長本が通り過ぎてから、教室に入った。
すぐそこに里穂の席がある。
「あ、高尾。おはよう」
「おはよう。ところでさ、里穂。僕のクラスでの立場って、どんなものなんだろうね?」
かつては平穏なボッチだったが、状況は著しく変わったのだ。
「うーん。そうね、銃殺刑で譬えるとね──」
「いや、どんな物騒な譬え方」
「千沙が合図を出せば、一斉に銃殺される感じ?」
「結局、本庄次第か」
「千沙の影響力は強いもの。高尾が千沙に対抗するには、アレをするしかないわね」
「アレって、なに?」
「千沙の弱みを握るのよ。そうすれば立場逆転よ」
「なるほど。で、本庄千沙の弱みって?」
本庄の幼馴染である里穂は断言した。
「ないわよ」
ないんかい。
自分の席に向かうと、隣席の真紀さんはすでに着席していた。
「おはよ高尾くん」
「おはよう。真紀さん、つかぬこと聞くけどさ。本庄千沙の弱みってなんだろうね?」
「千沙の弱み? どうかなぁ……」
真紀さんはしばし考えてから、
「千沙に弱みはないと思うよ」
『本庄千沙』最強説か……。
ホームルームが始まる前に、トイレに行っておこう。
教室から出たところで、
「おーい、高尾!」
廊下から、英樹に呼ばれた。
しかし、いま会うのは気まずい。
動物園で見捨ててしまったので、少し後ろめたいのだ。
ここは聞こえなかったフリして、逃げるとしよう。
速足に切り替えて、英樹がいるのとは反対方向へ進む。
しばし身を隠すため、無人の視聴覚室に滑り込んだ。
しかし無人というのは、勘違いだった。
本庄千沙がいたので。
すぐそばの席に腰かけて、スマホを眺めている。
僕には気づいていないようだ。
何をそんなに夢中になって見ているのか。
別に盗み見ようと思ったわけではない。
が、結果的にはそうなってしまったわけだ。
本庄の後ろから、スマホの画面が見えたので。
これはあれだな、BL漫画だ。
基準は知らないが、直観的に思った。
これはハードだぞ。
ようやく気配に気づいたらしく、本庄がこちらを振りむく。
目があった。
「なんだ、水沢くんか。朝の静謐な時間を邪魔してくれたね……ところで何か見た?」
スマホはすでにロックされた。
「……『何か』の内容にもよる」
「……『何か』は『何か』だよねぇ、水沢くん」
「……もしかして本庄は、隠れ腐女子というやつでは?」
本庄は溜息をついた。
「おめでとう、水沢くん。どうやらキミは、私の弱みを握ったようだね」
そうなのか、僕は本庄の弱みを握ったのか……
やったぞ、里穂。
それで、次はどうすればいいんだ?
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