表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/117

34

 



 ひとまず、僕たちは安全圏まで逃げ切った。


 だが真の安全は、この動物園にいる限りありえない。


「動物園から脱出しないと」


「同意するわ、高尾。そこでこの秘密道具が役に立つのよ」


 そして里穂が取り出したのは、ただの動物園のMAPだった。


「あたしたちの現在位置は──」


 近くの目印として、シマウマを見やる。


「シマウマの近くね。とすると──」


 真紀さんはシマウマを眺めながら、平和そうな顔で言った。


「シマウマって、地肌も白黒なのかなぁ?」


 真紀さん、動物園だと戦力外説が濃厚。


「真紀さん。いまはシマウマどころじゃないよ」


 里穂がMAPを見ながら、顔を青くする。


「ま、まずいわよ、高尾。あたし達が今いるのは、動物園の奥のほう。出口に向かうには、来た道を戻るしかないわ。すなわち、小夜と遭遇する可能性が出てくるのよ」


「こうなると、動物園がガラガラなのが残念だよ。遠くからでも発見されてしまう。しかし──

 僕たちは別に小夜を恐れる必要ないんじゃないかな? だって英樹が別れ話を切り出したわけじゃないよね? 不運なことに、英樹の二股相手が現れたわけだし」


 もしかすると三股相手かもしれないけど。


「僕たちに罪はない。小夜もこっちは怒ってないんじゃないかな?」


 ただでさえ、今は英樹の息の根を止めるので忙しいだろうし。


 しかし、里穂は首を横に振る。


「分かってないわね、高尾。ヤンデレに常識は通用しないのよ。松本くんとの破局の原因を、あたし達のせいにしてきてもおかしくないわ。そうすれば、何がおびやかされると思う?」


 僕は固唾をのんだ。


「僕たちの──命か」


 真紀さんが朗らかに言う。


「見て、高尾くん。シマウマがこっち来たよ~」


「シマウマのことは忘れなさいよ、真紀。緊張感を持ちなさい」


 と里穂は鋭く言ったが、実際にシマウマを見ると、


「あ、本当。すぐそこまで来ているわ。3人で自撮りする?」


「いいよ」


 パシャリ。


「とにかく移動を開始しよう」


 しかし脱出行は困難を極めた。

 とにかく動物たちの誘惑が激しい。

 

 毎回、動物のところで足止めを食うので時間がバカにかかった。


「次は百獣の王ね」


 ライオンは昼寝中。

 それでも真紀さんは怖いらしく、安全柵から少し離れている。それを見逃さないのが里穂だ。


「真紀、怖いの? ライオンが怖いの?」


「……別に怖くないよ。柵越しにいるのに、怖いはずないよね」


 ライオンがむくっと起き上がって、柵に近づいてきた。


 二重柵なので、安全なのは120パーセントだが。


 真紀さんがきっかり3歩後ろに下がった。


「ライオンなんて、大きい猫みたいなものだからね。私、猫は好きだよ」


「真紀さん。言動が一致してないよ」


 その後、地道に移動してようやく出口が見えてきた。

 安堵の吐息。


「捕まるなんて、杞憂だったみたいだね」


 里穂は名残惜しそうに後ろを振り返った。


「動物園って小学生以来だけど、思ったより面白かったわよね。また来──あ。高尾、猛獣が接近してくるわ!」


 そう言うなり、里穂が駆けだした。逃げ足速いなぁ。


 僕と真紀さんは逃げ遅れ、猛獣こと小夜に捕まった。


「水沢さん、滝崎さん。はぐれてしまいましたね? ようやく合流できました。さぁ帰りましょう」


「あ……帰るの? 英樹のことはもういいの?」


「はい。二股をかける男など、私のほうから捨てさせていただきます」


 意外と冷静。

 英樹の本性を知り、ヤンデレを克服できたのだろうか。


 いずれにせよ、ハッピーエンドだ。


「もちろん英樹には復讐させていただきますが、それは後日ということで」


 僕たちは無傷だから、やっぱりハッピーエンドだ。


 しかし真紀さんが言うのだ。


「井出さん。それは良くないと思うよ。復讐は過去を引きずる行為。そんなことより前を向いて歩かなきゃ!」


 ヤンデレを説教するバ

 じゃなくて最上位美少女。


 小夜が聞き流してくれて助かった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、この2人、仲良いよなー ポンコツ真紀とお人好し里穂。 ここにヤンデレがぶつかったら、事故だー まさか、英樹の穴を高尾で、はないよな?ないよな?
[一言] ハッピー... 幸せってなんだっけ? 自分がよけりゃそれでいっか?
[一言] 面白いコメディ小説やなー(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ