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里穂が顔を赤くしながら言った。
「ちょっと真紀、なにいきなり破廉恥なこと言い出すのよ!」
里穂に同意するよ、僕は。
真紀さんは少し驚いた様子で、
「えっ? そうかな。ごめんね」
微妙にいたたまれない雰囲気となった。
やはりリア充の世間話には、『あのカップル、エッチしちゃったのかな?』的なノリが出てくるのか。
真紀さん、リア充の地が出たな。
あと里穂は、この手の話に耐性がないらしい。
本庄とよく一緒にいるわりに、ちょっと意外ではあったが。
そして、真紀さんが蒸し返してくる。
「だけど、やっぱり重要なことだと思うよ。だってね、たとえば昨夜2人が初エッチしたとするよね。それで今日、別れるという話だと──」
今度は里穂も食いついた。
怒りの拳を振り上げる。
「俗にいう、槍投げね!」
「正しくは、やり逃げかな」
「松本くんが、そんな最低な人だとは思わなかったわ。今日会ったばかりだけど」
僕はハッとした。
知らぬ間に、英樹が『やり逃げ』男にされている。
親友として、僕は英樹を弁護するべきでは?
しかし、さらに考える。
英樹ならやりかねない。
そうこうしていると、英樹と小夜が帰ってきた。
「やれやれ。トイレが混んでやがったぜ」
真紀さんと里穂から冷ややかに見られる英樹。
英樹はそれに気づかない。
そして──
意外なことに、昼食は和やかに過ぎた。
その和やかさが表向きだとしても。
嵐の前の静けさだとしても。
レストランを出たところで、英樹が僕の肩に腕を回してきた。
これ、捕獲されたのかな。
「よし高尾。オレは小夜を振るからな。振るぞ。振るかんな」
「そこまで決意表明されても、困るんだけどなぁ」
「逃げんじゃねぇぞ、高尾。オレたちの友情が試されようとしてんだからな」
「今日になってから、その友情に疑問を抱き始めているんだけど」
その時だ──事態が急変したのは。
レストランの近くを3人の女子が通りかかる。僕たちと同年代だ。
その一人が何かに気づいた様子で、こちらに小走りでやって来た。
そして笑顔で言う。
「英樹じゃん、こんなところで何してるの?」
とたん英樹の顔色が悪くなる。
「お、おう、聡子じゃねぇか……お、お前こそ、こ、こここ、こんなところで何してやがんだよ」
聡子なる女子が、英樹に馴れ馴れしくボディタッチ。
それを見て、僕は気づいた。
恐ろしいことが起きようとしていることに。
小夜も、ボディタッチの意味に気づいたようだ。
聡子に接近。
「聡子さん、ですか? 英樹とはどのようなご関係で?」
「ま、まちやがれ──」
英樹が慌てて止めようとする。
しかし、遅かった。
何も知らぬ聡子が朗らかに答える。
「え? 関係って、英樹のカノジョだけど」
小夜の視線が、英樹へと向けられた。
血も凍る視線だ。
「英樹。あなたのカノジョさん、ですって」
地獄の釡の蓋が開いてしまった。
英樹。よりにもよって、小夜を振る前に二股なんて。
そんなに死にたいのか?
僕は英樹から離れ、真紀さんと里穂のもとに向かった。
「逃げるよ、逃げなきゃ!」
2人とも状況を理解し、駆けだす。
そして、僕たち3人は走った。
後ろを振り返ることはしなかった。
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