32
僕たちは昼食を取ることにした。
そこで園内のレストランへと向かう。
歩いていると、自然とメンバーが別れた。
僕・英樹・里穂の3人と、真紀さん・小夜のペアに。
英樹が僕と里穂に言う。
「決めた。飯食ったら、オレは別れ話をするぜ」
「あたしと高尾は、お昼食べたら帰らなきゃいけないのよ。急用なのよ」
「おい逃がさねぇぞ、渋井。高尾と一緒に、オレが別れるのを見届けやがれ。そして傷心の小夜を慰めてくれよ。オレが刺されねぇために」
「いやよ、いやよ! あたし、松本くんとは今日初めて会ったのよ! なのに、どうして松本くんのために命張らなきゃならないのよ! 男なら黙って死になさい! 骨くらいなら拾ってあげるわよ!」
英樹が慌てて、
「バカ、声がでけぇだろ。小夜に聞かれたらどうする」
こうしてレストランに到着。
席に案内されたところで、小夜がお手洗いに行った。
「オレも小便してくるか」
そう言って英樹も消えたところで、真紀さんが言う。
「高尾くんと里穂に聞きたいんだけど、『私のターン』ってどういうことなのかな?」
小夜から聞いたらしい。
押し付けた当人の里穂が答える。
「あら、小夜から説明なかったのね? では、あたしから説明してあげるわ」
なぜ里穂は偉そうなのか。
とにかく手短に説明した。
「……というわけなのよ。そこで真紀にひと肌脱いでもらいたいわけ」
真紀さんはしばし考えてから、
「結局、どこに落としどころを求めているのかな? 松本くんと井出さんに上手くいってほしいの? それとも、無事に別れて欲しいの?」
これには僕が答えよう。
「僕たちが無事に今日を終えられるなら、どっちでもいいよ」
「そうなのよ、真紀。どうでもいいのよ正直。あのカップルが破局しようが、結婚しようが」
真紀さんは溜息をついた。
「それで私に押し付けようというんだね、里穂? けど、そうはいかないよ。私も協力してあげるけど、里穂と高尾くんも力を出してくれなくちゃ」
僕はうなずき、重々しく言った。
「つまり、僕たちは運命共同体だ」
里穂も重々しく続ける。
「そうね。呉越同舟よ、真紀。生きるか死ぬかよ」
真紀さんが苦笑した。
「2人とも、ちょっと大袈裟じゃないのかな? そこまで深刻にならなくても──確かに、井出さんは少し変わっている感じではあったけど」
「真紀は分かってないのよ! 井出小夜は本物のヤンデレよ! 純度100パーよ!」
「そうだよ、真紀さん。小夜さんが言葉にした『殺しますよ?』には、重みがあったからね。あの重さは──そう、経験者だけが出せる重さ」
「ええ、そうね。きっと松本くんの前に犠牲者が何人かいるわね」
ここまで言っても、真紀さんは半信半疑だ。
だが仕方ない。
実際に『殺しますよ?』と言われた人でなくては、これは分からない。
「えーと。じゃあ、松本くんを助けるのが目的なんだよね?」
「違う違う。いまは僕たちが助かることだけを考えようよ、真紀さん。英樹は諦めるしかないよ。だって、これは英樹が自分で蒔いた種だし」
小夜と付き合ってしまった、英樹の自業自得だ。
どうせ性格とか無視して、容姿で決めたんだろうし。
「ふーん」
真紀さんはお冷を飲んでから、さらりと口にした。
「ところで──あの2人って、もうエッチしたのかなぁ?」
「……」
何か言い出したぞ、最上位の人が。




