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何事にも終わりはある。
ヤンデレと離れていられた、平和な時間も終わりを迎えた。
唐突に。
里穂と合流しようとしたら、英樹と小夜もいたので。
里穂が無念という様子で言う。
「捕まったわ」
僕も無念だ。
「……捕まってしまったんだね」
英樹が僕のもとまで来て、恨めしそうに言う。
「おい高尾。親友は裏切らねぇんじゃなかったのかよ」
僕は小夜をチラッと見た。少し離れているので、こちらの声は聞こえないだろう。
そこで英樹に確認を取る。
「刺されてないところをみると、まだ別れ話は切り出していないようだね」
「切り出してねぇよ。つーか、別れ話したらオレやっぱ刺されるのかよ!」
「まぁまぁ。『刺される』は言葉の綾みたいなものだから。小夜さんも、包丁は持ち歩いてないと思うよ。たぶん」
「最後の『たぶん』ってなんだよ」
「希望をこめてみた」
ここでやっと、真紀さんを紹介することになった。
「英樹。真紀さんが一緒になってもいいよね?」
「おう、人数が増えるのは大歓迎だ」
英樹は真紀さんの前に行き、挨拶。
「どうも。オレは松本英樹だ。こうして話すのは初めてだな、滝崎さん」
「そうだね、松本くん。だけど久須木くんから話は聞いてるよ。部活でレギュラーなんだってね──」
それから真紀さんと英樹は、しばしの世間話に入る。
そこに登場する人物名の多いこと。わずか2分たらずで10人は出てきた。
全員、真紀さんと英樹の共通する友人たちらしい。
これがリア充の人脈か。
というか英樹もリア充の仲間なんだよね。たまに忘れるけど。
あと久しぶりに真紀さんが最上位の女子っぽく見えた。
最近はポンコツ率が高くて、どこのランクの人か分からなくなっていたので。
ふと視線に気づくと、小夜と目があう。
「うっ……どうかしたの、小夜さん?」
「困りますね、水沢さん。勝手に消えられては。英樹が私を振ろうとするとき、水沢さんが止めてくれる手筈でしたよね?」
真紀さんと英樹はまだ世間話中だ。
こちらの会話には気づいていない。
僕は引きつった笑みで答えた。
「……そうだったね」
小夜の視線が里穂へ向けられる。
「渋井さんも、止める役割でしたよね? そんなお二人が逃亡するなんて──殺しますよ?」
里穂が青ざめた。
「ご、ごめんなさい。けど、あたしたちは逃げたわけじゃないのよ。ね、高尾?」
「そうだよ、そう」
もちろん実際には逃亡している。
里穂はどう言い逃れるつもりだろう?
小夜が小首を傾げる。
「逃げたのではないのですか? ではどのような目的で?」
本当だよ、どのような目的だよ。
里穂は答えた。
「強力な助っ人を呼びに行ったのよ!」
そうして真紀さんのほうを指さした。
本人には気づかれないようにして。
「滝崎真紀は、最強の助っ人よ。彼女に任せておけば、小夜さんの悩みも解決。松本くんと末永く幸せになれるわ。つまり、ここからは滝崎真紀のターンというわけよ」
うわぁ。真紀さんにぜんぶ押し付けるなんて。
鬼畜の所業だ。
小夜が僕を見やった。
「本当ですか? 滝崎真紀に任せれば、すべて問題解決ですか? ここからは滝崎さんのターン?」
気づけば僕は即答。
「もちろん。ここからは真紀さんのターンだよ」
まぁ、真紀さんなら任せても大丈夫か。
たぶん。




