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乗馬体験の場所に戻る。
乗馬といってもポニーなので、真紀さんも実物を見たらホッとするだろう。
ところがポニーを見るなり、真紀さんが顔を青ざめた。
僕に軽くしがみ付いて、
「た、高尾くん。ラブラドールよりも大きいよ?」
なんか恐怖のあまり、ポンコツになっている。
「ポニーは大人しい動物だから、心配ないよ」
たぶん。
里穂が真紀さんに動画を見せた。自分が乗馬しているときの動画だ。
「ほら楽しそうでしょ? これが正しい動物園の楽しみかたよ。それで真紀はどうするの? 怖いなら辞退してもいいのよ」
煽るなぁ、里穂。
「こ、怖くなんかないよ。ちょっと大きかったから、動揺しただけだよ」
どうやら真紀さんは小型犬しかダメな人らしい。
乗馬待ちの列が進み、真紀さんの顔色はより悪くなった。
「真紀さん。無理しないほうがいいと思うけど──」
「む、無理なんてしてないよ、高尾くん。けど私が乗っている間、手を握っていてくれると嬉しいかな」
「いや手綱を握らないと、両手で」
「深い考察だね、高尾くん」
大丈夫かな。
真紀さんの順番になった。
僕と里穂は柵の外から、真紀さんの乗馬を見守る。
意外なことに──と言ったら失礼だが──いざ乗ると真紀さんは凛々しかった。
さっきまで怯えていたのが嘘のようだ。
これぞカースト最上位の底力か。
隣では里穂が、頻りにうなずいていた。
「やるわね、真紀。それでこそ、あたしのライバルよ」
いつライバルになったんだろ。
乗馬も終わり、真紀さんはこちらに歩いてきた。
ところが、乗馬をし終えて力が抜けたのか、ふいに体勢を崩す。
「危ない!」
僕が慌てて支えると、抱きしめる格好になった。
真紀さんからはいい匂いがした。
なぜ女の子はいい匂いがするのだろう。
「高尾、離れて高尾」
と、里穂が背中を叩いてくる。
真紀さんが体勢を立て直した。
「ごめん、高尾くん」
里穂が疑わしそうに言う。
「真紀。どこからが計画のうちだったのかしら」
今のはどこまでも本当だったと思うけど。
「さてと。いい加減、英樹たちと合流しようか?」
「反対だよ」「反対よ」
真紀さんと里穂がハモった。
やっぱりこの2人、仲がいいんだよなぁ。
当人たちに自覚がないだけで。
「じゃ次はどこに行こうか? 真紀さんは何か見たい動物、ある?」
「コアラが見たいかな」
「あたし、もう見たのよね。ちょっとお手洗い行ってくるから、2人で見てくれば?」
「そうしようか」
いったん里穂と別れ、僕と真紀さんはコアラの場所へ向かった。
ちょうど飼育員さんが、コアラに餌やりしているところだった。
ユーカリをむしゃむしゃと食べるコアラ。
なかなか癒される光景だ。
「真紀さん。可愛いね、コアラ」
「私、コアラのマ〇チが好きなお菓子なんだよね」
……だからコアラ見たいと言ったのか。
真紀さん、動物園にいるとポンコツになる説。
餌やり中の飼育員さんが、僕たちに気づいて手を振った。
「やぁ、妹さんはどうしたの?」
妹とは里穂のことだな。
いちいち誤解を解くのも面倒なので、妹ということのままで。
「お手洗いです」
飼育員さんは真紀さんを見やって、
「今度こそ、カノジョさんだね? お似合いのカップルさんだ」
真紀さんが僕に言った。
「今のを里穂にも聞かせたかったよ。いい飼育員さんを見れて、私は満足かな」
「いや、コアラを見なさいよ」




