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 一生の不覚。


 電車内で真紀さんに、


『良かったら動物園に来て』


 とメッセージを送っておきながら、すっかり忘れていたとは。


 初っ端のキリンでテンション上げちゃったからなぁ。


 そんな僕の心境を見抜いたのか、真紀さんが言う。


〔もしかして、動物園でテンション上がっちゃったのかな? それで私のことを忘れちゃったとか?〕


「そんなことは……」


〔別にいいんだよ、高尾くん。正直に言ってくれるだけで、私は許せるよ〕


 あれ。意外と怒ってない? 正直者は救われるということかな。


「実はそうなんだよ。里穂とテンション上がっちゃって──ごめん」


〔ふうん。里穂とテンション上がっちゃったんだね〕


「そうそう」


〔高尾くん。さっき『私は許せるよ』と言ったよね?〕


「言った」


〔あれは嘘だよ〕


「………え?」


 通話が切れた。


 それから数秒後、真紀さんから、


『キリンのところにいるよ』


 というメッセージが届く。


 もう園内に到着しているのか。

 いま迎えにいくよ、とメッセージを送信しようとした。

 

 ところがその前に、新たなメッセージが届いた。


『今はライオンのところだよ』


 それから10秒ほど経って、またメッセージが届いた。


『今はチンパンジーのところだよ』


 ……これ、だんだん近づいてきているんじゃないか?

 メリーさんの電話みたいになってるんだけど。


 僕が凍り付いていると、里穂がふしぎそうに言う。


「どうかしたの、高尾?」


「里穂、大変だよ。僕たちは真紀さんを召喚したのに、すっかり忘れてしまっていた」


「あー、そう、そうよねぇ」


 里穂の反応がおかしい。


「……まさか里穂は忘れてなかったんじゃ?」


 あからさまに視線をそらす里穂。


「そ、そんなわけないでしょ」


 うーむ。ここで里穂を追及しても仕方ないか。


「とにかく、真紀さんを迎えに行こう。さっきはチンパンジーのところにいたようだけど──」


 スマホに着信。真紀さんからだ。


「もしもし? いまどこにいるの?」


〔高尾くんの後ろだよ〕


「うわぁあ!」


 飛びのきつつ後ろを見ると、真紀さんが冷ややかに見てきていた。


「高尾くん。なんでそんな反応するのかな?」


「……いや、別に」


 ビビったからとは口が裂けても言えない。


 真紀さんは、僕と里穂を交互に見た。


「ふうん。2人だけで動物園に来ていたんだね」


「いや、松本英樹という友達と、その恋人である井出小夜さんも一緒なんだ」


「なんだかダブルデートみたいだね?」


「まぁ一応、そういうことにはなっているんだよ。建前上は。実は英樹の頼みでね──」


 ここで里穂が勝ち誇って、


「つまり、高尾はあたしを選んだということよ」


 真紀さんはハッとした。


「昨夜の『動物って好き?』という質問メッセージ。動物園にどっちを誘うか決めるためだったんだね」


 さすが真紀さん、鋭い。


「真紀さんは、あまり動物が好きという感じでもなかったから」


「別に嫌いじゃないんだよ」


 すかさず里穂が言う。


「あたしは動物大好きよ。さっきも乗馬してきたし」


「ふーん、乗馬……」


「真紀もしてくれば?」


「何を?」


「乗馬」


 真紀さんが当たり障りのない笑みを浮かべた。


「私はいいかな」


 真紀さん、本当に動物は得意ではないようだ。

 なら乗馬を勧めるのは酷というものだろう。


 ところが、里穂が真紀さんの肩に手を置いて、


「それは良くないわよ、真紀。動物園に来たというのに、乗馬もできないようじゃ。あたしは言うわね──何しに動物園に来たの?と」


 なんか煽りだした。


 真紀さんはムッとした様子で、


「わかったよ里穂。そこまで言うなら、馬に乗るよ」


 そして意外と煽られ耐性ないのが、真紀さんだ。





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