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乗馬といってもポニーで、50キロの体重制限があった。
「あたし、乗れるわ!」
「そう?」
「当たり前でしょ。50キロもないわよ」
ここは女子として強調しておきたいようだ。
「じゃ里穂は乗ってきなよ。僕はここで動画を撮ってあげるから」
「分かったわ」
かくしてポニーに乗り、はしゃぐ里穂。
あまりにはしゃぐので落馬しそうで、見ているこっちはハラハラだ。
里穂が馬上から手を振ってきた。
「高尾~! ハイヨー、なんだっけ!? ハイヨー!?」
「知らないよ!」
「ググって、ググって!」
ググった。
「あー、シルバーだってさ!」
「ハイヨー、シルバー! ところでどうしてシルバーなの?」
「さぁ」
乗馬が終わり、里穂は上機嫌だ。
「次はどこ行く?」
「どこでもいいけど──ところでさ、里穂。僕たち何か忘れてる気がするけど?」
「忘れている気がするときって、何も忘れてなかったりするものよ」
「確か駅での話し合いの後で──」
「孔雀よ!」
「孔雀だって?」
ここの動物園では孔雀を放し飼いにしていた。
「自撮りしましょ、自撮り」
「いいよ──あっ待った」
孔雀の後方に、英樹と小夜を発見。
向こうはまだこちらに気づいていない。孔雀の羽が良い遮蔽と化しているので。
「いまのうちに逃げよう」
僕と里穂は小走りで移動。
「閃いたわ。パンダ見ましょうよ、パンダ」
「パンダはいないよ。上野じゃないんだから」
「じゃコアラで我慢するわ」
その言い方は、コアラに失礼だろ。
コアラのところまで移動。
暖かい日だからか、コアラは眠たそうにしていた。
「ねぇ高尾。コアラって、のんびりなイメージがあるわよね」
「まあね」
「ナマケモノと徒競走したら、どっちが勝つのかしら?」
「そりゃあ、コアラじゃないかな。さすがに」
「撮りましょ、高尾」
「いいよ」
コアラをバックに、2人で自撮り。
そばを通り過ぎた飼育員が、気さくに声をかけてきた。
「そこのカップルさん。13時からコアラへの餌やりをしますから、見ていってくださいね~」
里穂が顔を真っ赤にして、片手をぶんぶんと振る。
「そ、そんなカップルなんかじゃないわよ。お似合いのカップルなんかじゃ」
誰も『お似合いの』とまでは言ってない。
飼育員さんはハッとした様子で、
「ああ、すいません。兄妹でしたか」
とたん里穂が死んだ目をした。
「兄妹? そうなの。兄妹に見えるの。ふーん」
不穏な空気を感じ取ったらしく、飼育員さんは逃げて行った。
「さっきの飼育員さんには、お似合いの兄妹に見えたらしいね」
里穂は拗ねた様子で言う。
「そういうのいらないから、高尾」
スマホに着信があった。
英樹かなと思って、確認せずに通話に入る。
「もしもし?」
〔高尾くん。いまどこにいるのかな?〕
真紀さんの声だ。
ふいに何を忘れていたのか思い出した。
「あ」
〔その『あ』は、わたしを呼び出したこと忘れていたよ、の『あ』じゃないよね? もちろん、違うよね高尾くん?〕
「……」
その『あ』です。




