26
土曜日。
まずは里穂と待ち合わせてから、英樹たちとは現地集合だ。
そこで家を出たところ、門扉の前に少女が立っていた。
僕と同年代くらいか。
肌がとても白く、華奢な身体ということもあって、病弱そうだ。
僕が横を通り過ぎようとしたら、いきなり手首をつかまれた。
「水沢高尾さんですね?」
「え? ああ、はい。そうですけど。前にお会いしましたか?」
「私、井出小夜といいます」
小夜? 聞いたことがある。
あっ。
「もしかして英樹のカノジョさん?」
「はい」
だとしても、どうして僕の家の住所を知っているんだ?
そこであることを思い出した。
英樹は今日、この小夜という子を振るつもりなんだ。
小夜の瞳が、妙な輝きを放つ。
なんか病んだ感じの──
「今日。英樹は、私を振るつもりなんです」
危うく「どうして分かったの?」と返すところだった。
それを飲み込んで、
「……どうしてそう思うの?」
「英樹のことは、私が誰よりも分かるからです」
「……そう」
英樹が、僕たちを呼びたがった理由が分かってきた。
「水沢さんは、英樹の大親友ですよね?」
「大はつかないくらいの親友」
「是非、私に協力してください。英樹が、私を振るような愚かな行為をしないように」
「でも、それは英樹と君の問題で──」
「え、殺しますよ?」
え、まって。
いまナチュラルに「殺しますよ?」と言ってきた?
「とりあえず──行こうか? ほら電車に乗らないと、動物園で英樹が待ちぼうけだ」
「はい」
「……」
僕たちは駅に向かった。
ホームでは里穂が待っていて、小夜を見るなり顔をしかめる。
僕を引っ張って行く。小夜から離れたところで、
「高尾。また新しい恋人候補を作ったの? 高尾の夢って、ハーレム作ろうなの?」
「違う。彼女は小夜さん。英樹のカノジョだ。そして──」
先ほどの小夜との会話を話した。
里穂が青ざめる。
「え、それ俗にいうアレじゃない──ヤンデレ」
「どうやら、そうらしい」
「まって、怖い。高尾、刺されない?」
「心配しなくていいよ、里穂。刺されるのは英樹だから」
里穂がホッと胸を撫で下ろした。
「そうよね。あー、良かった」
「うん……」
いや、いいのかそれで。
「何のお話ですか?」
いきなり背後から小夜の声。
僕と里穂は、飛びあがりかけた。それくらいの吃驚。
「あの天気の話。晴れて良かったねと」
「そ、そうなのよ、小夜さん。あ、あたしは渋井里穂。よろしくね。ところで小夜さんって、うちの高校の子じゃないわよね?」
「はい。白鉦学園です」
里穂が僕に小声で言った。
「白鉦学園って、お嬢様学校よ。やっぱり、あーいうところは変な子が多いのかしら?」
「聞こえるだろ」
しかし、その心配はなかった。
小夜は己の目的しか考えていない様子だ。
「水沢さん、計画は決まりましたか?」
「計画?」
「英樹に別れ話をさせないための計画です」
「あー、それ。でもさ、人の気持ちは変えられるものではないから。英樹が別れ話を望むなら、友達である僕は見守ってやることしか──」
小夜が前に進んできたかと思えば、僕に肉薄。
瞳は異様な輝き。
「英樹の幸せには、私が不可欠なのです。理解できないのでしたら、英樹の友達失格です──殺しますよ?」
いい天気なのに、寒気がした。
隣では里穂が震えている。
『殺すぞ』という脅し文句は、ほとんど言うだけだ。
しかし、小夜の『殺しますよ』は重い。
ガチでやる感がある。
英樹、なんて子と付き合っちゃったのかなぁ。
「ちょっと里穂と相談してくる。ほら、英樹に別れ話をさせない計画について」
小夜がほほ笑んだ。
「分かりました。ここで待ってますね」
僕と里穂は、小夜から離れたところで話し合った。
「ちょっとどうするのよ、高尾。あんな子、あたしの手には負えないわよ」
「僕にだって、負えるわけないよね」
「仕方ないわ、高尾。せっかくの高尾とのデートだけど、ここは召喚することを許すわ」
「召喚? 誰を?」
「真紀に決まってるでしょ」
「真紀さんか……」
カースト最上位とヤンデレって、どっちが強いんだろ。
とりあえず、連絡してみるか。
 




