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3時間目の休み時間。
僕は真紀さんを呼び出した。
「高尾くん。休み時間ごとに忙しそうだね」
「まあね。それより視聴覚室へ──」
ところが視聴覚室は授業で使われるらしく、別クラスの生徒で溢れていた。
「……学校って、プライバシー確保するのが難しいね」
「そこまでプライバシー確保が必要な話なの?」
「告白するんだから、プライバシーは必要だよ」
「告白?」
しまった。口を滑らせた。
「高尾くんが、私に?」
「まぁ、そうだね。本当はもっとちゃんとしたかったけど。そう告白」
真紀さんは複雑な表情をした。喜んでくれると思ったのだが。
「……真紀さんは僕のことが好き、なんだよね?」
「そうだよ。鈍感系の高尾くんでも分かるくらいには、好きだよ」
「なら嬉しがってくれるかと」
「告白してくれたのは嬉しいよ、高尾くん。けど──それは本心なの?」
「え?」
思いがけないことを尋ねられた。本心だから告白したのに。
「もちろん本心だけど──」
「本当に? 本当に私のこと好きなの? 昨日は異姓として好きじゃない、と明言したのに?」
「あれは里穂を傷つけないようにしたかったから」
「先週の木曜日は、私の告白を断ったよね?」
「あの時とは事情が違うよ。あの時は──真紀さんのことを、同情だけで告白してくるロクでもない女子だと思ってた」
真紀さんは神妙な面持ちになった。
「その件は、反省してます」
「そして無理やりデートに誘われて──」
「だけど、デートという認識はあったんだね?」
「いま振り返ると、あれはデートだったよね。とにかく、僕も真紀さんが好きになったわけだよ」
ここまで言っても、真紀さんは納得していない。
「うーん。高尾くん。もしかして、状況に流されているだけかもしれないよ?」
「状況? 確かにこの週末で、状況は劇的に変わったけども」
「私のことが好きなんじゃなくて、好きにならなきゃならない状況だから、高尾くんは告白したのかも」
混乱してきた。
何が嬉しくて真紀さんは、話をややこしくするのだろう。
「……まった。そもそも『好き』という定義って、一体──?」
真紀さんはちょっと呆れた顔をした。
「え、そこから?」
「異性として好きというのは、どういうことを言うんだろ?」
「私自身は答えを知っているけど、こればかりは教えられるものじゃないかな」
まあ人間の感情だから、そうだよね。
「……つまり、僕は真紀さんを好きになった、ような気がするだけだと?」
「私に聞かれても困るよ。ただ、高尾くんにはその疑いがある。一度、自分を見つめ直してほしいかな。その上で、本当に私に恋してくれたのなら、改めて告白して」
「……分かった。じゃあ、僕のいまの告白に対する答えは?」
「ノーだね」
……あれ。まてよ、これはつまり。
「僕は振られた?」
「……そうなっちゃうよね」
これが振られるということか──。
△△△△
その後、一人で廊下を歩いていると里穂が駆け寄ってきた。
「高尾、真紀に告白したの?」
「した。そして振られた」
里穂は驚いた。
「ええっ! だって真紀は高尾のことが好きなのに」
「振られたものは、振られたんだから」
里穂が僕の肩をさする。
「えーと、その……元気だして」
僕は首を傾げた。
「あんまり落ち込んでいないんだよなぁ。やっぱり僕は真紀さんが好きじゃなかったのかなぁ? だけど、真紀さんと一緒にいると居心地が良いんだ。これは恋じゃないのかな、里穂?」
「あたしに聞かないでよ」
「恋は難しい」
「それより高尾。厄介なことになったわよ」
「今より厄介なことって、なんだろ?」
「お昼だけど。千沙がね、自分たちのグループに高尾を誘うって、言っていたわ」
確かに厄介なことになった。
「本庄千沙は何がしたいんだ?」
「あたしが分かるわけないでしょ」
幼馴染が分からないって、相当なものだと思うよ。




