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 二時間目の休み時間。


 僕は里穂を呼び出した。


「ちょっと時間あるかな。2人で話したいんだけど」


「い、いいわよ。それで、どこで話す?」


 チラッと見ると、真紀さんがこちらを眺めていた。

 いや、今は真紀さんではない。里穂だ。


 どこに行こうか迷って、最後には視聴覚室を選んだ。今日は授業で使われていないらしく、無人だったので。


 里穂も何やら緊張した様子だ。

 僕が何を言おうとしているのか、だいたい察しているのだろう。


 つまり、僕が振ろうとしていることを──


 里穂はもじもじしていたと思ったら、意を決した様子で言う。


「高尾! あたしに愛の告白をするつもりなのね!」


「……違う。その反対。つまり、振るほう。ちゃんと明確に伝えるべきだと思って」


 里穂は驚愕の表情を浮かべた。


「ええ!」


 その「ええ!」はこっちのセリフなんだけど。


「……そもそも、どうして告白だと思っちゃった? 昨日、里穂を異性としては好きじゃないと言ったばかりなのに」


 里穂は涙目になって、


「やめて、やめて。心の傷を抉らないで。昨日は真紀の顔色をうかがったのかな、と思ったのよ」


「そうなのか……ごめん。だから里穂のお弁当は食べられない」


「え、そこは食べてよ」


「え?」


「せっかく作ったんだから」


 おかしい。先ほどの里穂は、正反対の発言をしていたはずなんだが。


「……それは道理が通らないんじゃなかったっけ?」


「それは、あたしが失恋する前提じゃなかったからよ!」 


 ……なるほど。


 里穂は何だか哀愁をまとって言った。


「というか、あたし二度も高尾に振られたわけ?」


「一度目は事故みたいなものだけどね。そういえば、あの雨宿り事件の翌日から里穂が無視してきたような」


「千沙の助言に従ったのよ」


「本庄の?」


「高尾を振り向かせるにはどうしたらいいかって、千沙に聞いたの。そしたら千沙は、塩対応が一番よと。もっと言えば、何日か無視していれば、高尾があたしの有難味ありがたみに気づくって──」


「え、それで1年間も無視していたの?」


「長い1年だったわ」


 素直というか、バカ正直というか。


 本庄はこうなることを予測していたように思う。つまり、里穂が僕を無視すれば、僕も里穂を無視するだろうと。


 では本庄がなぜ、そんな助言を里穂にしたのか。

 楽しそうだったから、ではないか?


 やはり本庄千沙は油断ならない相手だ。


 ふいに里穂が、声のトーンを変えて言った。


「告白するんでしょうね?」


「誰に?」


「真紀によ。あたしを振っておいて、真紀とは惰性で付き合っていたら許さないわよ。ちゃんと告白しなさいよ」


「今日中に?」


「当たり前よ」


「僕さ、木曜日に真紀さん振ってるんだけど」


 あのときは、真紀さんのことを何とも思っていなかったんだが。

 何が起こるか分からないのが、人間の感情ということか。


「今日はもう月曜日なんだから、そんな大昔のことは関係ないわ。とにかく、告りなさい。そして、あたしの弁当も食べなさい。わかったわね?」


 里穂なりに背中を押してくれているのだろうか。


「了解した」


 里穂は吐息をついた。それから囁くように言った。


「……ほんと長い1年だったわ」


「余計なお世話だと思うけど、本庄とは友達付き合いやめたほうがいいよ」


 里穂は観念した様子で言う。


「幼馴染は、そう簡単に付き合いをやめられるものじゃないのよ」


「なるほど」


 里穂は千沙と幼馴染のおかげで得していると思ったが、事実は違うようだ。


「とりあえず、本庄にはもう恋愛相談はしないほうがいいよ」


「それは同感ね」


 里穂の口調には実感がこもっていた。




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