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 英樹が珍しく朝練に出るというので、僕はひとりで登校した。


 弁当ダブルブッキングの件、早々に当人たちに伝えて謝罪しよう。

 その上で、責任もって2人の弁当を完食する。昼に備えて、朝食は抜いてきた。


 昨日は失態続きだったので、今日はうまくやろう。


 下駄箱で上履きに履き替えていると、石戸に声をかけられた。


「おはよーさん、水沢」


「……」


 タイミングからして、僕が来るのを待機していたようなんだが。


「おい、シカトすんなよ水沢」


 口調はふざけている感じだが、親しみは感じない。


「おはよう。じゃ」


 スルーして通り過ぎようとしたところ、肩に腕を絡めてきた。


「まてよ。ちょっと用があるんだ」


「なら、ここで話してもらえるかな?」


「まぁ、来いって」


 どうやら石戸は僕を連れていくよう命じられていたらしい。

 石戸をパシリに使える人物は、一人しか思い当たらない。


 石戸の案内で向かった先は、視聴覚室だった。朝は使われないので、こっそりと話し合うには便利か。


 本庄千沙は、窓際に置いた椅子に座っていた。


 僕が視聴覚室に入ると、石戸が退去。よく調教されているなぁ。


 僕は本庄の傍まで向かった。


「僕に用があるみたいで」


 本庄千沙は、どことなく雰囲気が真紀さんに似ている。

 ただ真紀さんと違って、僕には欠片も好意を抱いてくれていないが。


「呼び出すみたいになって、ごめんね。ただ教室だと人が多いから。キミとは一対一で話さなきゃと思っていたんだよね。ま、座って」


 そう言って、近くの椅子を指さす。


 僕は言われるがまま椅子に座った。


「それで?」


「それで──時間もないし、簡潔に話そっか。水沢くん。私は、キミが誰と付き合おうと反対じゃないよ。本当に。三咲なんかはさ、キミと真紀が付き合うのを私が邪魔すると思っているようだけど。それは誤解」


「はぁ」


「ハッキリ言うとね。私も、そこまでヒマじゃない。他人の恋路の邪魔をする労力で、もっと色々なことができるからね」


 正論だ。

 しかし、とりあえず聞いておく。


「だけど、長本三咲はカーストの崩壊を気にしていたようだよ。それに本庄さん、あなたも気にするだろうとも」


 すると本庄は楽しそうに笑った。


「まさか、キミも三咲に同感だったりするの?」


「え?」


「キミが真紀とカップルになったとたん、カーストが崩れ去るって?」


「えーと。まぁ僕は最底辺で、真紀さんは最上位だから──」


「あのね、水沢くん。スクールカーストって、キミが思っているより柔軟なんだよ。キミが真紀とカップルになり、それがクラスで公けになったとしようか。どうなると思う? 

 初めは、多くの同級生が違和感を覚えるかな。けどね、そのうち慣れる」


「……慣れる」


「そう。そして、あるときキミは気づく。自分が、上位カーストに仲間入りしていることを」


「まさか」


「本当だよ。真紀は、学年一の美少女。最初のころは、どうして水沢なんかと? と反感を抱く人もいる。

 けど慣れてくるに従って、キミを見る目が変わる。なぜかって? 真紀に好かれるということは、メジャー系部活に入って活躍するくらいのステータスだから」


 そういえば、はじめ真紀さんが同情告白してきたのも、そんな理由だったっけ。


「なんか気に入らないな」


「気に入らなくても、そういうものだから。あ、だから心配しないでね。三咲と亮平が、キミに敵意を持ってイジメを画策していたようだけど──」


 そういえば、長本三咲が『地獄を見せてあげる』とか言っていたな。

 3P事件のせいで、すっかり忘れていたが。


「私が止めておいたから」


「それは面倒が起きなくて助かるけど。どうして、僕を助けてくれるんだ?」


 本庄は意外そうな顔をして、


「分からない?」


「分からないといえば、分からない」


「私、心が優しいから」


「……なるほど」


 つかみどころのない人だな。

 真紀さんが手こずるわけだ。


「じゃ用件は済んだみたいだね」


 僕が立ち上がろうとすると、本庄は止めた。


「これからが本番だよ、水沢くん」


「え?」


「キミさ。いま両手に花だよね? 真紀と里穂で──2人にお弁当を作らせてさ」


 どうして知っているんだろ。里穂はともかく、真紀さんが本庄にわざわざ話したとも思えないが。さすがにクラスのボスだけはある。


 本庄はほほ笑んだが、目は冷たい。


「その両手に花を、今すぐやめなさい」


「つまり?」


「真紀か里穂。どちらか選びなさい。2人のお弁当を食べればいいとか、そんな安易な結論、私が許しません」


 あれ、この人──

 真っ当なことを言っているぞ。


 だからといって、命令されるのは好きじゃないが──。


 僕は席を立った。


「お弁当は2つとも食べる。せっかく作ってもらったんだからね。しかし、あなたの助言は聞こう。それでいいかな?」


 本庄は答えた。


「もちろん」







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― 新着の感想 ―
[一言] うん、真っ当なことを言ってる。 …が、高見の見物でいろいろ楽しんでるひとかなー 彼女にとっては、三咲が虐めて苦難を1カップルに与えるよりも、陰キャが頑張って上位カーストの女子に告白する事…
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