表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/117

18

 



 僕はウーロン茶を飲んで、ひとつ深呼吸した。


 この修羅場を乗り越えるにあたって、何を重視するべきなのか?


 それは3人のメンタルの傷を、できるだけ軽く済ますことだ。


 そして現在、最も深手を負っているのは里穂。


 つまり、もう里穂を傷つけちゃだめだ。

 ここからは『里穂ノーダメージ戦略』でいく。


 とすると、いま僕が発言するべきことは──


「ノー」


 真紀さんと里穂が、同時に僕を見た。

 そして同時に聞いた。


「「ノー?」」


「さっきの真紀さんの質問の答えだよ。僕は真紀さんを異性として、好きではない。だから、ノーだ」


 とたん里穂が少し元気になったように見える。


 一方、真紀さんは傷ついた表情でうなだれる。


「そっか……私のこと、やっぱり好きじゃないよね。ごめんね、高尾くん。昨日いい雰囲気だったから、ちょっと勘違いしちゃって」


 しまった。今度は真紀さんのメンタルにダメージが。


 どうすればいいんだ。

 こうなったらもう、これしかないのか──


「あのさ、3P……する?」


 場が凍り付いた。


 まず真紀さんが冷ややかに言う。


「高尾くん、今そういう悪い冗談に付き合う気分じゃないから」


 続いて里穂が、こちらは顔を真っ赤にして言った。


「高尾、そんなエッチなこと──もう最低よ!」


「……」


 こうして昼食はお開きになった。


 なるほど。これが英樹の作戦だったのか。

 僕自身が悪役となることで、真紀さんと里穂の争いを止めるという。


 確かに痛みを伴う解決法だったが、うまくいった。さすが親友だ。


 なんか泣きたくなってきたけど。



 ▽▽▽



 その夜。

 英樹に報告し忘れていたので、電話した。


「英樹。あのあと、3P作戦でうまくいったよ。ありがと」


『え……高尾。お前、ガチで……3Pでうまくいったの?』


「そう」


『……マジでやっちゃったの?』


 つまり、『3Pを提案して悪役になったのか?』という意味か。


「マジでやっちゃったよ」


『高尾ぉ……高尾ぉぉ……高尾ぉぉぉ! どうしてオレも誘って、4Pにしてくんなかったんだぁぁぁぁ! 親友じゃなかったのかぁぁぁぁぁよぉぉぉぉ!』


 通話を切った。

 やっぱりダメだな、この親友。


 スマホを机に置いたら、すぐに着信があった。英樹かと思ったら、真紀さんだ。


「もしもし」


『高尾くん。昼間は色々あったけど、明日の約束は変わってないからね』


「約束?」


『ほら昨日、約束したよね? 私がお昼のお弁当を作ってあげるって』


 実際のところ、そこまで明確な約束ではなかったが。


「それより昼間の暴言だけど──」


「3Pする」発言を謝罪しようと思ったのだ。

 だが、真紀さんが遮るようにして言った。


『心配しないで、高尾くん。あのときはショックを受けたけど、今なら理解しているから。あれは里穂のためを思っての発言だったんだよね?』


 そうそう。真紀さんと里穂の争いを終わらせるため、僕が悪役を買って出て──


『里穂を傷つけないため、私にノーと言ったんだよね? つまり、〔私を異性として好きではない〕というのは、里穂のための嘘なんだよね?』


 そっちの話か。


 真紀さんの解釈は、あながち間違ってはいないが──。

 にしても。

 こういうとき、真紀さんの最上位としての自信、というか『地』が垣間見れるなぁ。


 真紀さんは続けた。


『ところで高尾くん。何か好きなお弁当のおかずはある?』


 弁当を作ってもらうだけでなく、注文までしていいのだろうか。

 ただこういうとき、「なんでもいい」と答えるのが一番迷惑とも聞いたことがある。


 そこで何点か好きなおかずを言った。


『──うんっ、わかったよ。また明日、学校でね。お弁当、お楽しみに』


「ありがと。じゃあね」


 通話を終える。


 すると待っていたかのように新たな着信があった。


 今度は里穂からだ。


「もしもし」


『高尾……昼間の暴言だけど、今なら謝罪したら許してあげるわよ』


「念のため聞くけど、どの暴言?」


『どのって、あの、3……もう言わせないでよね、高尾のエッチ!』


 あ、今回は僕の思っているのと同じ暴言だ。


「ごめん、悪かった」


『もういいわよ。それより、高尾っていつも弁当持参しているわよね?』


「まあね」


『明日は持って行かなくていいわよ。どうしてだと思う?』


「どうして?」


『あたしが、その、作って行ってあげようかなと、思って……もしかして迷惑?』


 こう答えるべきだ。

 もう真紀さんが作って来てくれることになっているよ、と。


 しかし、気づけばこう返答していた。


「……迷惑なんてことはないよ。嬉しい。楽しみだ」


『そ、そう? 良かった。ところで高尾って、苦手な食べ物ってあるの?』


「しいて言うなら、アスパラガスかな──」


 こうして、お弁当のダブルブッキングが発生したのだった。


 また悩みごとができた。しかも自業自得で。

 

 ただ、一つだけハッキリしていることがある。


 英樹には、助言を求めないでおこう。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 割とはっきり言う主人公なのに珍しい。 それだけ3Pのダメージが大きかったのかな?
[一言] 混沌化していってる。 はっきりさせない高尾に幻滅した。
2020/04/07 08:52 退会済み
管理
[一言] もう、「ノーノー」作戦で行けばいいじゃない(笑) 真紀には「いや、まだだろ」 里穂には「ん、本心だし?」 と、返せたらー題名が変わりますね 3人で仲良く春うららすればいいと思うよ (昔…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ