15
真紀さんが持ってきてくれたウーロン茶をすする。
里穂はこちらをチラチラと見ていて、僕と視線があうたびに顔を赤くしていた。
真紀さんは涼やかな表情で、僕と目があうと微笑みかけてくる。
「パスタが来る前に、本題を話しておこうか。里穂、僕が聞きたかったのは──」
「私たち、昨日は映画に行ったんだよ。ね、高尾くん?」
いきなり真紀さんが言い出した。これが最上位美少女の得意技、空気を読まない、か。
里穂がやたらと動揺しだす。
「え、映画に行ったって、どういうことよ」
真紀さんはなぜか勝ち誇る。
「だって私たちカップルだし。カップルって、デートするものでしょ?」
対して里穂はなぜか歯噛みしている。
「……映画って、何を観たの?」
「それは……」
真紀さんが即答しなかったので、僕がかわりに答えた。
「洋画のホラー」
里穂が少しばかり安堵した様子。
「なーんだ、恋愛映画じゃなかったのね」
「恋愛映画を観ようとしたけど、席がなかったんだよ。ね、高尾くん?」
「え? ああ、そうそう。混んでたからね」
「真紀。いちいち『ね、高尾くん?』って、高尾に語りかけるのやめてくれる?」
「恋人だから語りかけてもいいと思うよ。ね、高尾くん?」
「だから真紀、高尾と恋人なんて認めてないって、あたし言ったわよね?」
「里穂の許可はいらないと思うよ」
「……」
真紀さんと里穂で盛り上がっているところ悪いが、このままだと話が進まない。
今回の目的は、僕が里穂を振ったのかどうか明らかにすることだ。
というか、振ってないと断言できる。
なので、なぜそんな誤解が生まれたのかハッキリさせること。
「あのさ2人とも、そろそろ本題に入ろ──」
そこで注文したパスタが運ばれてきた。
専門店だけあってメニューは豊富。僕たち3人は、別々の種類のを注文していた。
しばし食事に没頭。
しばらくして真紀さんが言った。
「高尾くんのパスタも美味しそうだね」
「そう?」
「ちょっと味見させて?」
「別にいいけど」
「じゃ先に、私のを味見させてあげるね」
真紀さんはフォークで麺を巻き取って、僕のほうに差し出してきた。
「じゃ、せっかくなんで──」
口を開けて、フォークに顔を近づける。
「ちょっとまってよ!」
里穂がテーブルをバシンと叩いてきた。
これには驚く。
「な、なんだよ、里穂?」
「なに自然な流れで、『あーん』しているのよ! 恥ずかしいと思わないの!?」
「なんというか、今のほうが恥ずかしい」
里穂が大声を出すものだから、周囲からの視線が痛い。
「そ、それに、フォークで『あーん』とか危ないじゃない。間違って喉の奥を刺しちゃったら、どうするのよ」
「里穂が、そこまで言うなら。真紀さん、ちょっとフォークを借りるよ」
真紀さんから、麺を巻き取ったままのフォークを借りて、自分で食べることにする。
これなら里穂も文句あるまい。ところが──。
「それ、間接キス!」
間接キス?
確かに、このフォークで真紀さんは食事していたわけだから、そうなるのか。
僕はフォークを真紀さんに返した。
「自分のフォークを使うよ」
真紀さんは里穂に微笑みかける。しかし目は笑っていない。
「里穂。余計な指摘、ありがと」
▽▽▽
食事も一段落したところで、ドリンクバーのお代わりに行くことにした。
僕が席を立つと、真紀さんも立ち上がる。里穂のグラスを素早く取り、
「高尾くん、私も行くね。里穂は何がいい?」
「まって、あたしも行くわよ」
「3人で行ったら迷惑って、さっき高尾くんが言ってたよね? 里穂のお代わりぶんは、私が持ってくるから。で、何がいいのかな?」
里穂が悔しそうに言う。
「……アイスティー」
ドリンクバーのところで2人になったとたん、真紀さんが何やら真剣な様子で言う。
「高尾くん。作戦変更だよ」
「え、作戦変更?」
「当初の作戦は覚えているよね?」
「僕が里穂を振ったいう誤解を解き、僕と里穂が和解する」
「あのね、高尾くん。和解も何もないよ。だってね、里穂が高尾くんにベタ惚れということが判明したから」
「里穂が僕に? そうかなぁ?」
「そうなんだよ、高尾くん。鈍感系を極めている高尾くんが分からなくても、無理ないけど」
いま軽くディスられた?
「それで真紀さん、どう作戦を変更するの?」
真紀さんは、僕の目を見て言った。
「高尾くんがもう一度、里穂を振るの。完全に。それが新しい作戦だよ」
なんか、とんでもないこと言い出したんだけど。