14
真紀さんがパスタ店について来ると知り、里穂はあからさまに嫌な顔をした。
「まってよ、真紀。今日は高尾と2人だけの予定で──」
「けどデートじゃないよね、里穂?」
真紀さんがそう問いかけると、里穂は顔を真っ赤にした。
「あ、当たり前じゃない! どうして高尾なんかとデートしなきゃならないのよ」
『なんか』扱いされたが、そりゃあ1年間も無視されていたわけだ。
「じゃ、私がついて行っても問題ないわけだよね?」
カースト順位でいえば、里穂は真紀さんに逆らえる立場ではない。
だが里穂は、真紀さんを睨んで言う。
「も、問題あるのよ、真紀」
里穂の反応は意外だ。
学校の外だからか、よほど僕と2人でパスタ店に行きたいのか。
「ふーん。じゃ高尾くんに決めてもらおうか」
なに?
真紀さんの提案に、里穂も同意する。それから僕を見て、必死の様子で言う。
「高尾、はっきり断ってよね」
対して真紀さんは、余裕の微笑み。
「高尾くん、里穂のためにも早く決めてあげて」
これは2人の女子の板挟みか。
こういう時は、どちらを怒らせるとより怖いかで考えよう。
考えるまでもなく、真紀さんだな。
というわけで、里穂には我慢してもらおう。
「里穂、友達を仲間外れにするのは良くない。真紀さんがいたからって、不都合はないだろ?」
「不都合は、あるのよ……」
と里穂は、消え入りそうな声で言う。
真紀さんは、はっきりとした口調で言った。
「決まりということでいいよね?」
「異議なし」
僕がそう言うと、里穂が恨めしそうに見てきた。
「昨日は電話で、あたしと2人きりになりたいって、言ってたのに」
「そんなふうに言ったかな?」
「要約したら、そんな感じだったわよ」
確かに、真紀さんがいないほうが話はスムーズに進んだだろうが。
来ちゃったものは仕方ない。
「高尾。どうして、あたしの味方してくれないのよ」
「いや、逆にどうして味方してもらえると思った。以前は友達だったけど。1年間の断絶期間を得て、僕と里穂はただの同級生に戻ったわけだし」
里穂は、口をあんぐりと開けた。
「……断絶……ただの同級生」
勝手にショックを受けている里穂を見ていたら、真紀さんが近づいてきた。里穂に聞こえないように囁いてくる。
「里穂を傷つけるようなこと言ってどうするの? 里穂と仲直りすることが目的なんだよ? それに高尾くんにはまだ、『里穂をむごく振った』疑惑があるんだから。とにかく、頭でも撫でてご機嫌とってきて」
「真紀さんが現れるまでは、里穂はご機嫌だったんだけどね」
そう言いつつも、僕は里穂のもとまで行く。
「なによ、高尾」
「まぁ、その、あれだ。仲良くいこうよ」
里穂の頭を撫でる。
こんなことして何の意味があるのか。
と思ったら、里穂が顔を赤くしつつ癒されたような顔をした。
凄く意味があった。
それから慌てた様子で、里穂が僕の手を払う。
「も、もう。何するのよ、勝手に人の頭を撫でないでくれる? 髪が乱れちゃうじゃない」
「あ、ごめん」
「いいわよ、もう──その、あたしもワガママ言っちゃったわね。真紀も入れて3人でいいわ」
まさか頭を撫でるだけで、こうもうまくいくとは。
それを見抜いた真紀さんは、さすがということか。
にしても、里穂の真紀さんへの態度は感心した。
里穂はカースト順位に従うタイプだと思っていたので。
「里穂。今回、僕は真紀さんの味方をしたけど──何というか、里穂を見直したよ。真紀さんに逆らうとは思わなかった。たぶん勇気がいる行為だったんじゃないかな?」
里穂は反応に困った様子だ。
「それは、あたしが高尾と2人でいたくて、だから──そ、そんなこと褒められても嬉しくないわよ」
「けど里穂には、千沙の後ろ盾があるから」
と、真紀さんが付け足してくる。
「あ、なるほど」
里穂が顔をしかめる。
「千沙はいま関係ないでしょ」
▽▽▽
こうして3人で、パスタ店へ向かった。
真紀さんが推測したように、確かにお洒落な店だ。昨日のチェーンのラーメン店とは違うなぁ。
テーブル席につき、それぞれ注文を終える。
僕は立ち上がった。
「ドリンクバー行くけど、2人の分も持ってくるよ。何がいい?」
もちろん3人とも、ドリンクバーは注文済みだ。
「あたし、アイスティーがいいわ。高尾、よろしくー」
「私も行くよ、高尾くん。1人で3人分は大変だよね」
「ありがと真紀さん」
「あ、ずるい。それなら、あたしも行くわよ」
僕は席に座った。
「高尾?」
「高尾くん?」
「3人でぞろぞろ行くと、他のお客さんに迷惑だし。2人が行くなら、僕の分もよろしく。ウーロン茶でいいよ」
「「……」」
真紀さんと里穂が、ドリンクバーまで歩いて行く。2人の会話が聞こえた。
「高尾のウーロン茶は、あたしが用意するから」
「里穂。それは恋人の私の仕事だよね?」
「……真紀が高尾の恋人って、あたしは認めてないわよ!」
僕はひとり待ちながら思った。
あの2人、意外と仲いいな。