13
里穂との待ち合わせ場所に到着。
5分前行動を心掛けたが、すでに里穂は来ていた。昨日の真紀さんといい、女性陣は10分前行動が基本なのか?
里穂は、真紀さんには負けるが美少女だ。
白い肌に、黒髪はショート、胸は小さめ。
里穂の私服姿は何回か見たことがある。去年の今頃は、まだ里穂と出かけることもあった。
いま思うと、あれはデートだったのか?
いや、一緒に映画行ったり水族館行ったからといって、イコールでデートではないはず。
僕が考え込んでいると、里穂が気軽に肩を叩いてきた。
「久しぶりね、高尾」
久しぶり──確かに久しぶりだ。
「里穂さ、僕のこと無視していたよね、この1年間」
とたん里穂がよく分からない顔をした。恥ずかしさか、後悔か、または──。
意外と真紀さんより表情を読みにくいな。
「もうせっかくさ、そういうわだかまりを忘れようとしたんじゃない。そこは空気を読んでよね」
「そうか──それは悪かった。いや、ここ僕が謝罪するところか? シカト被害に遭っていたのは、こっちだぞ」
「じゃあさ高尾は、その──」
里穂は頬を赤くして、モジモジしだした。
「あたしと話せなくなって、寂しかった?」
寂しかったかと問われれば、そうだなぁ。
はじめの三日は寂しかった。
そのあとは一人でソシャゲするのも悪くない、というか楽しいぞと気づいてしまった。
「寂しかったよ」
『はじめの三日は』の部分は省略。直観的に、それが正解な気がした。
里穂は何だか嬉しそうだ。
「そ、そっか。寂しかったのね、高尾は」
やはり正解だったか。
思うに真紀さんとの交流によって、僕のコミュ力は向上したのではないか。
交流といっても、昨日出かけただけなのに。さすが最上位美少女の影響力。
などと考えていたら、真紀さんが歩いてきた。
「おはよ、高尾くん、里穂」
「真紀さん、おはよ。実はいま真紀さんのことを考え──なんでいるの!?」
里穂はいまだ真紀さんに気づかず、ごにょごにょ言っている。
「実はね、あたしも、高尾と話せなくて、さ、さび、さび、寂しか──」
「里穂、大丈夫? 具合でも悪いの?」
「あ、うん、心配しないで真紀──え、真紀? どうしているのよ!?」
真紀さんが僕の手を握った。
「なぜなら、私たちカップルだから。聞いてなかったの、里穂は?」
反射的に手を握り返してから、ふと思う。
真紀さん、傍迷惑なんだが。
里穂は腹パンくらったような顔をした。
「そんな……嘘……でしょ?」
僕は真紀さんの耳元で囁く。
「何しにきたんだよ、真紀さん?」
真紀さんも囁き返してきた。
「これも、高尾くんのためだよ。高尾くんに二股疑惑がかかったら、もう取り返しがつかないから。それを阻止するため、私は非常手段に出たの。別に、里穂とのデートを嫉妬したからじゃないからね」
「二股? なんのことだ?」
「とにかく、千沙に攻撃材料を与えないことが大切なの。分かった?」
里穂が僕と真紀さんの間に割って入った。
「いつまで手を握り合って、イチャイチャしているのよ!」
「……いや、イチャイチャしているわけでは」
さっきまで里穂の機嫌は良かったのに。真紀さん登場で台無しだ。
しかし、考えてみるとおかしい。
「里穂。どうして真紀さんが来た途端、不機嫌になっているんだ? まさか里穂、君は──」
里穂がドキッとした顔をする。
「な、何よ? あたしの何が分かったというのよ?」
「真紀さんのことが嫌いなのか!」
なぜか里穂は脱力した。
「……もう、そういうことにしておいていいわ」
真紀さんが呆れた様子で言う。
「高尾くん。やっぱり鈍感系を極めているみたいだし、里穂の告白の件も冤罪じゃないんじゃない?」
冤罪に決まっているが、そんなことより真紀さんだ。
里穂が真紀さんを嫌っている以上、3人での行動はプラスにならない。
「じゃ、真紀さん。偶然会ったようだから、もう別れを──」
「私、パスタが食べたいな、高尾くん」
……付いて来る気満々か。