110
下着姿で惨敗となった里穂。
そんな里穂が僕の肩に両手を置き、真剣な眼差しを向けてきた。
「高尾。『上』から脱ぐべきか、『下』から脱ぐべきか。高尾が決めてくれていいのよ?」
「そんな究極の選択を迫らないでくれるかな──とはいえ、現実的にいって『上』からじゃないの」
「そこを理路整然と説明してみてよ」
なぜ説明義務が発生しているのだろうか。
「『上』はまだ前方を隠せばいいので、片手で済む。しかし『下』の場合、前方はもちろんだけど後方も隠さなきゃならない。すると両手がふさがるので、もうジャンケンができなくなる」
「あたし、高尾ならお尻くらい凝視されてもいいわよ」
という謎の即答。
「もっと恥じらいをもとうか里穂。そしてなぜに僕が凝視すること前提?」
「凝視しないのは、あたしに失礼でしょう」
とにかく里穂はブラジャーを外す流れになった。僕は遠慮深く視線を外して、部屋の片隅を見ておく。
すると肩を、つんつんと突かれた。もう外したのかと思ったが、まだだ。
「何か用?」
「高尾が外してくれてもいいのよ」
「遠慮する」
ここでなぜか地団駄を踏んで怒りを表現する里穂。
「自分で外すのは、完全に屈辱だわ! それだと小夜にしてやられた感が満点じゃないの!」
「実際にしてやられたんだから」
「とにかく高尾が外してくれたら、まだ何となく救われるわけよ。ここはあたしの自尊心を救うところでしょ、高尾!」
時おり、里穂の意味不明な論理の迫力に負けるときがある。仕方ないので、里穂の背中に両手を回す。
そこで気づいた。別に正面から外しにかからなくても良かったのでは。なんか抱き寄せている感じになっちゃったし。
しかし、こうなってしまっては、もう一気に外すのみだ。ホックを外す外す外す…外せない。
「なんかこれ金庫のダイヤル錠なみに手ごわいんだけど」
「気持ちを落ち着かせてホックを感じ取るのよ。考えるな感じろよ高尾」
ブラジャーって、そんなに奥が深いものだったのか。
ようやくホックが外れたので、片方ずつ里穂の肩から紐をおろす。視線をそらしつつ、脱がしたブラジャーをどうしたものか。
「冷蔵庫に入れる?」
「ボケている場合じゃないわよ高尾」
ベッドにそっと置いておいた。
「里穂。もう君は真の意味で後がない」
里穂は左手で胸を隠しつつ、
「ええ、そうね。だから高尾。最後は、あたしのかわりに小夜と戦ってちょうだい。そして、あたしのために勝利をつかんで」
「……分かった」
里穂に戦わせたら200%敗北するしかなさそうだし。代理で戦わせてもらうとしよう。
「構わないね小夜?」
「構いませんよ」
よし。ここまでで分かったことは、小夜は運だけでは勝負していない。必ずや里穂の思考を読み取って、裏をかいてくる。ならば、その裏をかくのだ。
大丈夫。僕ならばできる。小夜の思考回路を分析し、さらにその上を行け。
「わたくしは、この最期の勝負でパーを出しますよ、水沢さん。わたくしがパーで勝利し、渋井さんは敗残者として全裸となるのです」
と、優しいともいえる口調で、宣言してくる小夜。
「高尾! 信じているわよ! あたしは信じている!」
と、ヒロイン的に盛り上がっている里穂。
パーを出すと宣言した小夜は、おそらく裏の裏の裏の裏の裏の裏をかいた、と見せかけて、実は裏の表の裏の裏で表の──これだっ!
「じゃんけん」
「ぽん!」「ぽん!」
僕がグー。
小夜がパー。
あれ、負けた。表と見せかけての裏だったのかぁ。
振り返ると、崖の上から突き落とされたような顔の里穂。
「里穂……とりあえず、もう潔く脱ぐしかないんじゃないかな」
面白いと思ってくださった方、下の☆☆☆☆☆から評価や、ブクマなどしていただけますと励みになります。