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 里穂がスマホを差し出してきた。


「これが、あたしの弱みよ高尾。高尾にだけは知っていてほしいの」


 いじらしく言う里穂。

 そうか。君は自分の弱みをさらけだせるというんだね。感動を禁じ得ない。そして里穂の評価が爆上がり。


「本当に、いいの?」


「高尾だからよ」


「分かった、ありがとう」


 というわけで、スマホを見てみた。てっきり画像とかかと思ったが、文章。

 それも短い。


『渋井里穂は恥をひきずって生きているような人。かつては水沢高尾に片思い中という秘密があったものの、いまや暴露ずみ。弱みの取得には失敗したものの、そもそも弱みがなくとも、操りやすいのです』。


「…………これ、どこが弱みなの?」


 なぜか驚愕する里穂。


「え? 解説が欲しいの? 論文くらい長めな解説を、朝まで語ってほしいというのね」


「いや、前言撤回。解説はいらないです」


「つまりね、弱みがない生き方をしているあたしって、もしかして恥ずかしいことなのでは。という意味での弱みなわけよ。分かる?」


 理解するべきなのかこれ。どうでもいいことで思考回路に負担をかけている。


「……………………厚顔無恥ってこと?」


「違うわよ! もういいわ。あたし、ちゃんと弱みになるような恥ずかしい情報、ここに記すから。そうね。お尻のほくろを結ぶと、かに座になるとか……見る?」


「いちおう尋ねる。何を?」


「あたしの、お尻のかに座」


 頬をそめて言う里穂。ちなみに、まだ頬を染める恥じらいはあったのか、と僕は安心。


「こんどね」


「初夜で?」


「知らん」


 しかし、想定以上に僕の握られていた弱みは重かった。里穂のは軽すぎて、ヘリウムガスみたいなものだったけど。


「里穂。オリジナルの弱みデータを、なんとか小夜から奪取しないと」


「そうね、高尾。こんな弱みを握られていては、あたしたち、もう安眠できないわよ」


 里穂の弱みは、いまごろ大気圏をこえるくらい軽いんだけど。


「……まぁ、いいや。何か妙案はある?」


 オリジナルデータをどこに保存しているかは不明。それに他にコピーを取っていないとも限らない。これは難しいミッションだ。


 ところが里穂は、何やら確信を秘めた瞳。頼もしさを感じる表情だ。


「ここは真っ向勝負よ」


「え」


 というわけで、僕たちは卓球台のところに戻った。千沙と真紀さんはまだ戻ってきていない。ひとり小夜だけ、椅子に腰かけて瞑目している。


「小夜」


 と里穂が呼びかけると、小夜は目をあけた。


「やっとお戻りですか」


 里穂がビシッと小夜を指さす。


「小夜。あたしたちと勝負よ。勝負に勝ったら、弱みのオリジナルデータをもらうわ」


 なるほど。これが『真っ向勝負』か。確かに小夜は、変なところで正々堂々としている。勝負前に約束したならば、守りそうではある。ただ問題は──


「わたくしが勝ったならば?」


「あたしと高尾が、『未成年はお断り』なエッチなことをするところ、撮らせてあげるわ。ね、高尾?」


『ね、高尾?』のところで、素敵な笑みを見せてくれる里穂。


 誰か、この娘をどついてください。



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