103
そこからは逆転劇のはじまり。
というほど劇的なものでもなかったけど、いい感じに連続してポイントを取った。
里穂がぽんぽんと背中を叩いてくる。
「高尾、いまのスマッシュ良かったわ! 一体どうしたの? いきなり卓球のスキルが覚醒したとか?」
「なんか、コツをつかんできた」
「やればできる子と思っていたわ!」
卓球台の向こうでは、千沙が難しい表情で。
「やるね、水沢くん──」
しばらくラリーの応酬。
僕の番、というところで、
「なら、これはどうかな水沢くん!」
千沙が、なぜか真紀さんの背後にまわる。何をするかと思えば。背中から真紀さんの胸を揉みしだき出した。容赦なき揉みかたで。
「きゃぁっ!」
と悲鳴をあげる真紀さん。
見惚れたせいで空振りする僕。
「あ」
1ポイント取られる。
その上、里穂にわりと本気で叩かれる。
「なにしてるの! あんなあからさまな精神攻撃に動揺してどうするの! 高尾、やる気あるの?」
「やる気の問題かな、あれは。男子として、致し方ない」
「ふーん。それなら」
里穂が無駄に近づいてきて、僕の耳元で囁き出す。
「これに勝ったら、あたしの胸をさわらせてあげるわよ」
「うーん。それは、どうも」
「えぇっ! そこはテンション爆上がりで、能力値もグーンと上がるところでしょう!」
別に、里穂がへんなご褒美を提案してこなくても、勝つ気は満々なわけだ。
勝負は続く。今回もラリーの応酬。またしても動く千沙──しかし。
先んじて、真紀さんの肘鉄が発動。千沙の腹部にめりこんだ。
「いい加減にして千沙」
「うっ……地味にすごく、痛い」
真紀さんと千沙が仲間割れでペースを乱したので、こちらは一気に畳みかける。
で、最終的にこちらが2セットを取った。
大勝利。
「真紀がおっぱい揉ませないから」
と千沙が、非難がましく真紀さんをにらんでいる。
その横で、僕は小夜から商品の小箱をゲット。
「やったわね高尾!」
「いぇーい」
とりあえず、里穂とハイタッチ。
さっそく千沙たちのいないところに移動して、里穂と確認した。小箱の中身はUSB。しかもご丁寧に、『弱みリスト:贈りもの用』というシールまで貼られている。
「どうしよう。これは本当に、本物だぞ。正直、ただのキットカットとかだと思ってた。小夜が、こんなものを用意していたなんて」
どれだけ、引っ掻き回したい性格なんだ、あのヤンデレは。
隣では里穂が固唾をのんでから、
「パンドラの箱なのね。とうっ!」
「あっ」
USBを奪い取って、ダッシュで走っていった。
「これは、あたしが1人で活用させてもらうわね!」
おー、なかなかの脚力だ。
「………………いや、まてっ!」